6.5壊と光を見守る兄~速編~


違う。俺が望んだのはこんなことじゃない。こんな結末なんて・・・。

俺はあの日2体のロボットを壊した。体だけでなく心も。2体とも俺の弟にあたる存在だ。
核を壊すことはしなかった。核さえ残っていれば何度でも体はよみがえる。
そう、何度でも。
だけど心に受けた傷は癒えない。たとえ核のデータを全て書きかえたって、心のどこかでは覚えているんだ。

俺はお前達が羨ましかった。俺では入り込めないほどの絆を持ったお前達が。だからくやしかった。
俺はお前達を愛していた。お前達も俺のことを愛していると思っていた。いや、愛してくれていたんだと思う。
でも・・・お前達の空間には俺の入り込むスペースがなかったんだ。くやしくてたまらなかった。
でも俺は・・・知っていたから。なんでお前達がそういう風になったのか知っていたから、わかっていたから、理解していたから・・・でも・・・もう限界だったんだ。
俺だけのけ者にされるのが悲しくて仕方なかった。
・・・だからといってあんなことをすべきじゃなかったんだ。

あれから数日たった今、俺の目の前にはフラッシュがいる。姿形、言動、声、全て今までと同じ。だが一つだけ違う箇所がある。
今のこいつにクラッシュの記憶はない。
そういう風に核のデータを書き換えたのだ。データの書き換えは容易なものではない。博士以外が書きかえることなど不可能だ。
俺が博士にフラッシュの記憶データの書き換えを頼んだところで実行されるわけがないと思っていた。
俺一人の意見が通るものかと。
だが博士は疑いもせずにデータの書き換えを実行した。
博士は俺を、自分の息子を信じきっているのだ。心が痛んだ。
俺は博士を、父を裏切ったのだ。

クラッシュはというと、ずっと部屋に閉じこもったままだ。
前にメタルが様子を見に行ったとき、クラッシュの目には何も映ってなかったそうだ。
止まっているわけではない。ただ、全てを拒絶しているだけだ。
俺たち兄弟の中で一番感情というものが強いクラッシュは全てを拒絶することで自分の心を制御することにしたのだ。
俺にはあいつに会う資格はない。
それに俺の姿を見てしまえばもっと心が壊れてしまうだろう。
俺はもうあいつの心を壊したようなものだけど。

違うんだ、俺が欲しかったものはこんなものじゃない。

俺の目の前で怒ったり笑ったりするフラッシュ。あれほど欲していたはずのものが目の前にあるのに、俺の心は満たされない。
クラッシュにとって不本意でも、フラッシュを俺から奪ったのは事実。だから取り戻したかったんだ。だから俺は二人を引き裂いた。
なのにこの虚しさはなんだ。

ああ、俺は俺とフラッシュ、そしてクラッシュが共にあることを願ったのか。
いくらフラッシュが俺のところにいても、ここにクラッシュがいなければ意味がないんだ。
それはもう叶わないことなのに。

俺はなんて事をしたのだろう。自分の欲望のために全てを壊してしまった。守るべき弟の心を壊した俺に兄を名乗る資格などない。

「クイック、どうした?」

なにも言わない俺を気にして声を掛ける目の前にいるフラッシュはフラッシュであってフラッシュではない。
クラッシュの記憶のないフラッシュはただの入れ物、中身がない。
そうしたのは俺。
フラッシュに対しても兄を名乗る資格はないな。

俺はどうしたらいい?
誰か俺に答えをくれ。自分じゃもう、どうしていいかわからないんだ。

「いつだって答えは自分の中に」

突然聞こえてきた声。その声に振り返ればいつもと違う口調で話すバブルがいた。

「・・・俺に言ったのか?」
「動き出さなきゃ何も始まらない」

まるで会話にならない。こちらを見ず、まるで独り言のように話すバブル。
だが、それは確実に俺に向けられたメッセージ。
バブルが何を知っているのかは知らない。だが、何を言いたいのかはわかった。
そうか、会わなきゃいけないんだな。会ってちゃんと向き合わなきゃいけないんだな。
それが俺にできる、いや、しなければならないことなんだな。

「バブルって何考えてんのかわかんねーよな」

そう言うフラッシュの腕を掴んだ。

「行くぞフラッシュ」
「行くって・・・何処へ?」

状況が呑み込めず困惑するフラッシュの腕を掴んだまま歩みだした。

「お、おいっ」

向かうは基地の最奥部。そこに答えがあるはずだ。

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