6.忘れないで


補足
前の話の一部始終を見ていたフラッシュの心の中。
この声はクラッシュには届いていません。
このあとフラッシュはクラッシュに関する全ての記憶を失います。


ああ、悲しい、悲しい、涙が止まらない、次から次へとあふれてくる。
機械である俺たちに「感情」というものを与えてくれた博士にはとても感謝している。
俺たちのあこがれである生命体がもつ「心」を与えられたような気がしてとても嬉しかった。
羨ましかったんだ。泣いたり、怒ったり、笑ったりできる生命体が。
なのに今ではこの「感情」を憎らしいと思っている。なんて面倒くさいんだ。自分の心を制御できないなんて。
このあふれてくる気持ちをどうしたらいい。悲しい、とても悲しいんだ、死んでしまいたいくらい切ないんだ。このままでは壊れてしまうんだ、何もかも、この世界が、兄のいたこの世界が消えてしまうんだ。
俺は兄に何をしてやれたんだろう。俺は兄を守ることも殺してやることもできなかった。ただ見ていただけだった。兄がいなくなる瞬間を。ただ見ていることしかできなかったんだ。
悲しい、悲しいよぉ、嫌だよ、兄が消えてしまうなんて、切ないよ、壊れてしまうよ。
お願い消えないで、消さないで、兄との記憶を持っていかないで、俺の存在まで消さないで、止まらない、止まらない、止まらないで。
俺が俺でいるために、どうか、止まらないで。
悲しくても、苦しくても、切なくてもいい、俺は忘れないから、俺のせいだけど、忘れないから、だから、俺のことも忘れないで。

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