単発

フラッシュはよく煙草を吸う。
実は俺はフラッシュが煙草を吸うときの仕草が好きだったりする。だから自然と視線がそちらの方に向けられることが多い。いや、煙草とか関係なしにフラッシュの方を見てしまう。
仕事してるときの表情も好きだし、なによりフラッシュという存在が・・・まぁいいや。

というわけで今も煙草を吸いながら作業をしているフラッシュを見ている。見つめている、というよりはチラ見している程度だ。
と、自分では思っているが実際はそうではないらしい。先程から何か言いたげなフラッシュの目がこちらに向けられている。
誤魔化せるとは思っていないけれど、気付かない振りをしてココアを飲んだ。

「・・・それって美味いか?」

どこかで聞いたような台詞だと思ったら俺が以前同じ問い掛けをしたことがあった。「それ」の指すものは違うけれど。
同じ台詞で聞いてきたのは故意なのかどうか・・・どちらにせよ少しだけ嬉しいと思う自分がいた。

「そんな砂糖たっぷりでよく飲めるな」
甘味を好まないフラッシュにとってはこの程度の砂糖の量も吐き気を催すものらしい。
「クイックのなんかもっとすげーぞ?俺様でさえ吐きそうになる」
「どんだけなんだあのV字は・・・」
わざとらしく「うげぇ」なんて言いながら吐くような動作をした。

「俺様にしてみりゃよくそんな苦いの吸えるなって話だ」
「吸ったことないくせにわかんのかよ」
「お前だって飲んだことないのに甘すぎとか言うなよ」
「空気が甘い」
「こっちも空気が苦い」
俺たちは互いに負けず嫌いなところがある。低レベルの言い争いではあるけれど、己の主張は通したいものだ。
大体空気が甘いってなんだ。クイックがよく空気が甘いとか言ってるけどよくかわらん。煙草の煙で空気が苦いのはわかるが。苦いというか煙いだけど。

「じゃあ確かめてみるか?」

言いながら近づいてきたフラッシュの意図に気付き目を閉じた。

「ん・・・」

普通はこっちが煙草吸ってみて、あっちがココア飲んでみるものだろうとか、なんでキスしなきゃいけないのかとか、そんなこと考えるだけ無駄だ。


絡まる舌に思考が霞む。

「・・・苦ぇ」
離した途端口の中に広がる苦味・・・。
甘いココアを飲んでいたせいか苦味がさらに強い気がする。

だけど

「やっぱ甘ぇ」
「・・・甘いの好きくないくせに」

「苦いの嫌いなくせに」

確かに苦いのは好きじゃない。でも

「もっと」
「仰せのままに」

これは嫌いじゃない。

煙草の苦味と砂糖の甘さ。互いに苦手なその味が気にならない、むしろ好ましく思えるくらい。

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