単発

クラッシュが任務に出かけたのは3週間前。なかなかの長期任務だ。
任務に時間がかかるというわけではなく、移動に時間がかかってしまうらしい。
そんなの俺ならすぐなんだけどな。

それよりも気になるのはあのハゲ・・・いや、フラッシュのことだ。
クラッシュが任務に出て数日は何も起こらなかった。
それが一週間前に夜中にフラフラと基地内をうろつくようになった。
なんで俺が夜中に起きてるか?トイレだよ!悪いかよ!!?
・・・コホン。
フラッシュは大体夜中に行動してる方が多いから特に違和感があったわけじゃないんだけどな。
だけどそのときは足元がふらついててなんか危なそうな感じだったんだ。酔ってんのかと思えば別に酒のにおいはしないし、変な感じだった。
俺は酒のにおいにはわりと敏感なんだぜ。どうでもいいとか言うなよ切なくなるだろっ!!
で、フラフラしてて危なそうだったからとりあえず様子を見ることにしたんだ。声をかけるよりその方が面白そうだろ?

どうやらフラッシュは基地の最深部に向かう様だった。
最深部って・・・ま、まさか?

「・・・」

まさかだったぁぁぁぁ!!!ですよねー!こっち方向ってクラッシュの部屋しかないもんねー!!
フラッシュはなにかを探すようにうろちょろ動き回ったあと、大きな溜め息をひとつ吐いてクラッシュの部屋を出た。
クラッシュの部屋を出たときに向かい合う形になってしまったが、気付いていないようだった。
そしてまたフラフラと今度は自室の方へ歩いて行った。
あいつ・・・夢遊病か!?

あのときのフラッシュの姿は普通に不憫だった。
だから・・・ハゲるのかあいつ・・・うぅ・・・。

で、まぁ今に至るわけだ。

フラッシュの夢遊病生活は未だに続いているらしい。夜中だけじゃなく昼間もフラフラしてやがる・・・重症だな。
でも問題はここからだ。

「なぁクイック、クラッシュはどこだ?」
「は?」
いきなり話しかけてきたかと思えば意味のわからないことを言う。
「クラッシュなら任務に行っただろ?」
「クラッシュは・・・」
「おいハゲ?」
なんか・・・虚ろな目してやがる・・・?
「クラッシュはどこだよぉぉぉぉぉ!!?」
「だから任務だって言ってんだろうがよぉぉぉぉぉ!!!」
いきなりビックリしたぁぁぁぁ!!!思わず俺も声張り上げちまったじゃねーか!!

「俺のクラッシュはどこなんだよぉぉぉぉぉぉ!!!!????」

俺の体を揺さぶりながら狂ったように叫ぶ声が部屋中に木霊した。あ、頭超いてぇぇぇぇ!!
他のやつらは見てない聞いてないフリしてやがる!
こ、こんな生活もう嫌だ・・・!

「クラッシュぅぅぅぅ!!!早く帰ってきてくれぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」

俺の叫びも部屋中に木霊した。



だけど、クラッシュが任務から帰ってきたのはそれから一週間後のことだった。



「いろいろと苦労をかけたみたいだな・・・大丈夫か?」
「大丈夫、大丈夫・・・いいからしばらくはフラッシュのそばにいてやれよ?」
クラッシュの背中に抱きついたまま動かないフラッシュを見ながら溜め息混じりに言う。
「当分離してくれそうにねぇよこれは」
そう苦笑しながら言ってはいるが、嬉しそうにも見えるのは決して俺の目がおかしいわけではないと思う。

「じゃあ」

そう言いながらクラッシュは背中に抱きついたままのフラッシュを引きずりながら歩いて行った。
引きずられてるフラッシュの足から煙みたいの見えてるけど大丈夫だよな。
疲れた体を癒すには走るのが一番だと、外に向かって歩き出した俺の耳に聞こえてきたのは二人の会話。
歩みを止めずに耳を澄ましてみる。俺の聴覚は二人の声ならわりとよく聞こえるからな。

「で、どこに行けばいい?」
「・・・俺の部屋」
「一回部屋に戻りたいんだがなぁ・・・」
「完全ロックと防音設備万全の俺の部屋」
「わかったわかった」

おお・・・普段は兄と弟の立場が逆に見えるのに、今は普通にクラッシュが兄に見えるな。
聞こえてきた内容はなんかおかしかったが。

・・・とりあえず、走りに行くか!

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