短いシリーズ

約束~敗北とは死を意味する訳ではない~


やっと手に入れた念願のハンドパーツ。
しかし、まだうまく使いこなせない。だから練習を兼ねて自室で読書をしていた。
うまく掴めずに何度も落とした。

―馬鹿、何やってんだ―

声が聞こえた気がして思わず後ろを振り返る。
だがそこに声の主はいない。
わかっているのに、声の主は、弟はもう帰ってこないのだと。

弟だけではない、一つ上の兄を除けば既に全員が帰ってこない。
帰って来れないのだ。

次は兄か自分の番。多分、俺だ。

最終防衛線である兄は自分の管理する基地に篭り、来たる日のために備えている。
最後に会ったのはいつの日のことだったか。
俺と同じ色をした瞳、だがその奥には沸々と湧き上がる怒りの炎が燃え盛っていた。

あんな兄を見るのは初めてだった。
本当は俺もそんな瞳をしなければならないはずだ。それなのに今の俺は自分でも驚くほど冷静だ。
兄以外の兄弟を失い、最愛の弟さえも失っているというのにどうしてこうも冷静になっていられるのか、自分でもわからない。

確実に勝つという自信があるから?
いや、俺が勝つ確立は限りなく0に近いだろう。
弱点武器を持つ空の王である兄は既に倒されているのだ。相手は確実に兄の武器で俺に挑んでくるだろう。

基地の構造上、俺までたどり着けないから?
確かに普通なら部下の連続的な攻撃により相手の体力を奪っていくから俺にたどり着くのは難しい。
だが最強の防具を持つ森の主である弟も倒されている。部下による攻撃など一切受け付けずにやってくるだろう。

諦めている?
俺は勝てないかもしれない。いや、確実に倒されるだろう。
だが俺は負けない。倒されることと負けることは違う。
たとえ体を粉々にされようが、核を失おうが、心は負けていないのだから。
そうだ、負けていないのだ。他の兄弟も心までは折れていない。
だから負けてはいない。

俺も負けない。兄弟達は誰一人として負けていないのに、俺だけ負けるなんて不公平だ。
それに俺には負ける気なんて全然しない。
だって、すぐそばに弟がいてくれるから。

俺は弟とある約束をした。
「お互い先に逝かない」と。
その約束が今でも俺を支えている。
だってそうだろう?
弟は負けてないのだから、此処で俺が負けたら約束を破ってしまうことになる。
折角弟が提案してくれたことなのに。

『―・・・っ隊長、来ました。ロックマンです・・・―』

ハンドパーツを胸の装甲に押し当てる。
大丈夫、まだ聞こえている。

「・・・行ってくる」

誰もいない部屋に向かって呟いた言葉。

大丈夫、俺は負けない。

ドリルアームに切り替え、部屋を後にした。

『負けるなよ』

背後から聞こえた声に思わず口元が緩む。
誰もいないはずの部屋。けれどそこには確かにいるのだ。

「へへ、俺様が負けるかよバーカ」

見えない相手が笑うのがわかった気がした。


「いくよクラッシュマン!!」

「ふん、破壊神の異名を持つ俺様に勝てると思うなよ?」


次は任せた。

想いは託されるものだ。
それは弟との約束だけではない。俺たち兄弟の絆。

さぁ始めよう、結末の見えた戦いを。

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