単発

いつものように仕事中のフラッシュの部屋にいた。
俺としては邪魔しようとしているわけではないのだが、フラッシュの膝の上が俺の定位置と化しているため今更別の位置にいようと思わないだけだ。
フラッシュも常に俺が座れるような体勢をしているし、その場で手招きされてしまえば断ることなどできはしない。

しかし小難しい顔をしながら画面を睨みつけているところを見ると、どうやら苦戦しているということが嫌でも分かる。
俺はフラッシュの仕事をしているときの顔は好きだが、邪魔になるようなことはしたくない。
だからこの場から離れようと声を掛けてみたのだが、

「なーフラッシュ」
「うるさい。少し黙ってろ」

ただ名前を呼んだだけなのに、そう邪険に扱われると俺でも少し傷付いたりする。
だが、「うるさい」とか「黙ってろ」とは言いつつも、「出て行け」などと俺をこの場所からどかそうという意思の言葉は言わない。

このまま此処にいてもいいと言うのなら、できればそうしていたいけれど・・・。

「邪魔しちゃ悪いし、俺様どっか行くわ」

それでも鬱陶しいと感じられる前にその場を離れようとすれば

「っ!出ていけなんて言ってねぇだろ・・・!」

と、強い力で押さえつけられてしまった。
痛みを感じる程度ではなかったけれど、軽い衝撃に咳き込んでしまい、結果束縛から逃れた機体はフラッシュから離れた。

軽く咳をし弟を見上げれば、その顔は少しだけ曇っていて、寂しそうな泣きそうな、そんな表情をしていた。

「俺様いないと寂しい、とか・・・?」

どうしていいかわからず、からかう様に笑って言えば

「・・・落ち着かねぇんだよ、お前の姿が見えねぇと」

なんて、普段言わないような台詞を吐かれ、抱きしめられた。

「お前は俺のそばにいればいい」

そんな風に言われてしまえばただ頷くことしかできなくて、また大人しく定位置に戻っていた。

俺を抱きしめる腕の力が少し強くなった気がするのが、なんだか嬉しく感じてしまう。

(甘えられてると、そう思ってもいいのだろうか?)

それを意識してしまえば自然と口角が上がってしまって、少しだけくすぐったい気分になった。

「クラッシュ」
「ん?」
不意に名前を呼ばれ振り向くと、
「なるべく早く片付けるから・・・ここにいろよ?」
若干の不安が混ざった声でそう聞く弟に対して、返事の代わりに軽く口付けてやった。

「まっ、たまには甘えさせてやるのも兄の務めってやつなのかもな」
「誰がいつ甘えたんだよ」
軽く頭を小突かれたけど、それが照れ隠しと分かっているから何も言わずに仕事が終わるのを待つことにした。

カタカタとキーボードを打つ速度が速くなったのを聞きながら、こういうのも悪くないと思った。

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