単発

絶え間なく降り続く雨の中で小さな命を見つけた。
それはあまりにも弱々しくて、少し力を加えて触れればすぐに潰れてしまいそうな、本当に小さな命。
守りたい。
そう思った。
だけど俺には抱きしめてやれる手がない。この雨から救ってやる手段すらない。
この手では誰も守れない。こんな小さな命ですら、俺には守ることができない。
破壊することしかできないこの手では・・・。
「にゃー・・・」
消え入りそうな声で鳴く命。
「・・・ごめんな」
俺はお前を守ってやれない。

ふと頭に浮かんだのは最愛の弟。
自分と比べて装甲が薄い弟は戦場において前線で戦うことはない。
特殊武器もエネルギーの消耗が激しいため滅多に使うことはしない。
なにより弟は頭を使った戦いを好む。策士として、自分が楽しむために。
だからこそ俺が守ってやらなければならない。兄として。それなのに・・・。

(守るどころか傷つけた)

悔しさが、悲しさが、涙となって溢れ出た。
降り止むことを知らない雨が涙を隠してくれていた。

「俺様は無力だ。戦闘力とかそんなの関係ない。俺様は無力だ」
しゃがみ込み、ポツポツと言葉を繋いでいく。
「にゃー」
慰めるかのように足元に擦り寄ってくる小さな命。
先程までの弱々しさはどこにも見当たらない。
(俺のために?)
「お前、強いな」
強がりでも弱さを見せないところはあいつそっくりだ。
フッと笑いが漏れる。

「ここにいたのか、探したぜ馬鹿兄貴」

背後から聞こえた声に振り返ればさっきまで思考を支配していた本人が立っていた。
「なんだ、泣いてたのか?」
「・・・雨だ」
そう強がりを言ったところで弟にはバレているのだろう。
「・・・ま、いいや」
そう言って隣に腰を落とした。
「・・・」
「・・・」
長い沈黙。それを破ったのは俺でもなく、弟でもなく、小さな命。
「にゃー」
先程までの弱々しさは本当にどこへいったのやら、俺と弟を交互に見遣いもう一声にゃーと鳴いた。

「俺たちよりもよっぽど大人だな」
「・・・そうだな」
気持ちを素直に表に出せる。どちらかと言えば大人よりも子供だからこそできることなのだろうが、これ以上話がこじれるのも面倒なので黙っておく。
先程の間にはそういった意味も込められているのだ。
小さな命の大人で子供な一面を見た俺は、少しだけ間を置いて弟に語りかけた。

「身体、大丈夫なのか?」
「まぁ・・・な、相変わらず核だけは無傷だし」
そう言ってケラケラ笑う弟は俺なんかよりもずっと大人なんじゃないかと思った。
大人というものが如何なるものなのか、今の俺にはちょっと理解できないけど、今の弟のようなものが大人だと言うのなら俺はまだ子供のままでいいと思った。
素直に想いを告げることのできる子供でいい。

一番言わなくてはいけない言葉を告げる。
「ごめんな」
「ん」
弟は満足そうに笑った。
そして別に気にしちゃいねーけど、と付け加えながら立ち上がり空を見上げていた。

雨はいつの間にか止んでいた。

「帰るか、そいつも連れて」
「・・・ん」

俺たちは歩み始める。弟の腕の中の小さな命と共に。

「にゃー」

弟の腕の中で満足そうに鳴いた。

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