恋人の日

恋人の日2019


「恋人を放置する恋人の日ってどうなんだろうな?」
そう言ったのは確かに自分で。それなのに、そう言った自分が相手を放置するなんて。
いや違う。放置したくてしたんじゃない。

「そう言えば、今日は恋人の日なんだって」
「知ってるよ!!!」
教えられてから何年経ってると思っているんだ。目の前のスターはいつものように穏やかな笑顔を浮かべていた。

「大体連れてきたのはそっちだろ!」
そうだ、好きでここにいるんじゃない。別にここに来ること自体は嫌じゃないんだ。俺だってスターと話すのは好きなんだ。
既に察してくれているとは思うが、俺をここに連れてきたのはスターだ。
いつもこうやって不可思議なことをする。本当に心臓に悪い。俺たちに心臓があるのかどうか・・・この話はまあいいか。
スターが何を企んでいるのかは知らないが、ややこしいことになることは確実だから早く帰してほしい。
今頃どうなっているのか不安でたまらない。昨日は確かに自分の部屋で寝たんだ。
その・・・オマケもいたんだが。ただ一緒に寝ただけだからな!?
(・・・俺様は誰に言い訳してるんだろうな?)
とにかく、毎年何かしら邪魔が入るから、いっそ前日から一緒に行動すればいいのではないかという結論にたどり着いた。
だから一緒に寝て朝から共に行動しようかって。なのに起きたら俺はここにいて。
つまりフラッシュが起きたら隣はもぬけの殻なわけで。
一応気付いたときから通信を入れようとしているのだけど、何故か繋がらないし。原因は絶対スターなんだけど。こいつはもう何をしてもおかしくない。ああ、スターだもんな、で納得してしまうのだ。

「迎えに来てくれるかな?」
「・・・それが目的かよ」
「だって心配なんだもの。変わらず愛されてる?」
訳、君はこの数年でどれだけ愛された?その愛を返せてる?
ってところだろうか。
言葉をそのまま受け取ってはいけない。裏を読め。会話は駆け引きだ。
言葉には裏がある。時にスターの言葉には幾重にも意味が隠されている。それを読み解くのも楽しいけれど、今はそうしている場合じゃない。
だって、もうすぐ。

「来るに決まってるだろ」

声がした。というよりは重なった、全く同じタイミングで発せられた言葉はまるで一人から発せられた台詞のようだった。
同じ言葉で、同じタイミングで、見事なシンクロ。それができることが嬉しい。

「今回はヒントも何もなかったはずなんだけどなぁ」
残念そうに言うスターと
「毎度毎度試すようなことしやがって、何が目的だ?」
喧嘩腰になるフラッシュ。
本当に来てくれた。不安はなかったと言えば嘘になる。けど、ちゃんと信じていた。

「たまには確かめたいと思わない?」
その問いはフラッシュにというよりも、俺に投げかけられたものだ。
だから俺が答える。
「思わないよ」
胸を張って。
「俺様はそれだけ愛されているんだから」
愛されてる自覚も自信もある。自覚させてくれたのも、自信をくれたのも
「そんで、ちゃんと返してもらってるから心配すんな」
こうやって答えてくれる大事な恋人だ。

「せっかくの恋人の日なのに邪魔してごめんね」
少しだけ寂しそうに見えたその顔に、いつかもっとちゃんと話をしたいと思った。


帰り道、しばらくは互いに無言だった。沈黙は苦ではないけれど、今日は話がしたい。

「恋人ってなんなんだろうな」
「・・・は?」
「恋人って結局どういうものなんだろう・・・とか思わないか?」
「そういうの考えるの好きだよな」
「好きだよ。それにそういう話をお前とするのも」
こういう、なんでもない会話をできる日々がただただ愛しい。その相手が恋人なら尚更そう思うのだ。


「だから今日はたくさん話をしようか」



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