恋人の日
恋人の日2017
『来年こそ惚れ直させる』
そんな大口叩いたのはどこの誰かって?
目の前で静かに眠っている俺様の愚弟兼恋人ですよ。
寝息も立てずに眠っているハゲには愚弟という評価で十分なんです。それでも恋人という肩書きを外せないのは惚れた弱みというやつなんでしょうか。
いやいや、俺様が惚れたんじゃなくて惚れさせてやったんですよ。
だから『惚れ直す』なんて言い方は俺様には相応しくないのです。惚れているのは愚弟の方なのだから。
事の始まりは半年前、この愚弟が任務に出たときの話です。
そのときは俺様も別の任務に出かけていて、戻ったときにはすでにこの愚弟は眠っていました。
別に大破して戻ってきたとかではないのです。うっかり変なウイルスを貰ってきてしまっただけなのです。どちらかというとウイルスをばら撒く方なのにマヌケな話です。
眠り続けるだけでそれ以外の症状はないものの、ワクチンが開発されていない新型のウイルスだという話です。
眠っているだけなら大した問題もないだろうと気楽に考えていました。もちろんみんなワクチンの開発を急いでいたし、なんとかして目を覚ましてやろうと試行錯誤していました。
だけど半年経った今でもこの愚弟は眠り続けているのです。
顔はこうして見れているものの、声が聞けないのは中々寂しいものです。
触れてしまえば傷つけてしまいそうなのでこの半年触れることもしませんでした。
声が聞きたい、触れて欲しいと願うのに、それが叶わない日が続きました。
ずっと昔、同じような思いをした時があったことを思い出します。嘘です。思い出す、なんて今まで忘れていたような言い方じゃなくて。
忘れた日などありません。だから、思い出すのとは違うのです。
「おれさまのおとうと、はやくめざめろ。おれさま、ずっと、まっているぞ」
声に出してしまえば当時の光景が目に浮かぶようです。あの時の愚弟は立っていたので今と少し状況は違いますが。ほぼ同じようなものです。
でも、あの時と違うのは愚弟がただの愚弟ではなくなったということです。
弟だけど、恋人なんです。
弟だけど、どうしようもなく愛しちゃってるんです。
ぶっちゃけ理由なんて覚えて無いです。いつからとか、なんでとか、思い出せないほどに。
感情を与えられているとはいえ、ただの機械でしかない俺様たちに恋とか愛とか必要なのかと問われれば、芽生えてしまったものはしょうがないとしか言えないのです。
必要だから芽生えたんです。なんて開き直ってみたりして。
小難しいことを考えるのは性に合わないもので。
だから今すべきことはこの愚弟の目を覚まさせる方法を見つけることだけなのです。
『来年こそ惚れ直させる』
この愚弟はそう言ったのだから。
「早く起きて有言実行してみせろ。お前は俺様の恋人だろ?」
傷つけないように、壊さないように。慎重に。
触れるだけの口付けをして。
これで目を覚ましたらとんだおとぎ話だな、なんて苦笑してみたり。
そうしたら、なんということでしょう。愚弟の目が開いてるではありませんか。
愛する者の口付けで目を覚ます、なんておとぎ話のようなことが実際に起こるなんて誰が予想できたでしょう。
ベタベタな展開過ぎてどう反応していいのかもわかりません。誰か俺様に正しい反応の仕方を教えてください。
とりあえず殴ればいいですか。
「オハヨーゴザイマスお兄様」
いや、王子様か?
開口一番そんなことを言うものだから思わず腕を振り上げてみたけれど、それは力なく垂れ下がり弟の腹部に置かれました。
目覚めたから愚弟から弟に格上げしてあげます。俺様優しい。
「愛の力ってすげーな」
感慨深そうに言うのもだからどうしていいのかわかりません。愛の力って。いや、そうなのだけど。そうなのか?
バカじゃねーの。そう呟いた声は笑えるほどに震えていて、ちゃんと言葉になっているかどうかも怪しいものでした。
「俺ってば愛されすぎじゃね?」
なんて言いながら動きの鈍い腕が俺様の頭に乗せられてしまったので、声を殺して泣いたのでした。
「来年こそ期待してるからな?」
泣きすぎてカスカスになった声でそう言えば、弟は引き攣ったような笑い方をしました。俺様はそんなに怖い顔をしていたのでしょうか。
していたのでしょう。弟の瞳に映る俺様は、それはもうとても楽しそうだったので。
こんな弟を、恋人を、俺様はどうしようもなく愛しちゃってるんです。
「全部聞こえてたって言ったらどんな顔するだろうな」
今も、あの時も。自分の声が全部筒抜けだったなんて知られたら、兄はどんな反応をするだろうか。
いつか告げようとは思うけれど、今はまだ俺だけの秘密だ。
一応ヒントは出したけれど、それに気付くかどうかはまた別の話だろう。
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『来年こそ惚れ直させる』
そんな大口叩いたのはどこの誰かって?
目の前で静かに眠っている俺様の愚弟兼恋人ですよ。
寝息も立てずに眠っているハゲには愚弟という評価で十分なんです。それでも恋人という肩書きを外せないのは惚れた弱みというやつなんでしょうか。
いやいや、俺様が惚れたんじゃなくて惚れさせてやったんですよ。
だから『惚れ直す』なんて言い方は俺様には相応しくないのです。惚れているのは愚弟の方なのだから。
事の始まりは半年前、この愚弟が任務に出たときの話です。
そのときは俺様も別の任務に出かけていて、戻ったときにはすでにこの愚弟は眠っていました。
別に大破して戻ってきたとかではないのです。うっかり変なウイルスを貰ってきてしまっただけなのです。どちらかというとウイルスをばら撒く方なのにマヌケな話です。
眠り続けるだけでそれ以外の症状はないものの、ワクチンが開発されていない新型のウイルスだという話です。
眠っているだけなら大した問題もないだろうと気楽に考えていました。もちろんみんなワクチンの開発を急いでいたし、なんとかして目を覚ましてやろうと試行錯誤していました。
だけど半年経った今でもこの愚弟は眠り続けているのです。
顔はこうして見れているものの、声が聞けないのは中々寂しいものです。
触れてしまえば傷つけてしまいそうなのでこの半年触れることもしませんでした。
声が聞きたい、触れて欲しいと願うのに、それが叶わない日が続きました。
ずっと昔、同じような思いをした時があったことを思い出します。嘘です。思い出す、なんて今まで忘れていたような言い方じゃなくて。
忘れた日などありません。だから、思い出すのとは違うのです。
「おれさまのおとうと、はやくめざめろ。おれさま、ずっと、まっているぞ」
声に出してしまえば当時の光景が目に浮かぶようです。あの時の愚弟は立っていたので今と少し状況は違いますが。ほぼ同じようなものです。
でも、あの時と違うのは愚弟がただの愚弟ではなくなったということです。
弟だけど、恋人なんです。
弟だけど、どうしようもなく愛しちゃってるんです。
ぶっちゃけ理由なんて覚えて無いです。いつからとか、なんでとか、思い出せないほどに。
感情を与えられているとはいえ、ただの機械でしかない俺様たちに恋とか愛とか必要なのかと問われれば、芽生えてしまったものはしょうがないとしか言えないのです。
必要だから芽生えたんです。なんて開き直ってみたりして。
小難しいことを考えるのは性に合わないもので。
だから今すべきことはこの愚弟の目を覚まさせる方法を見つけることだけなのです。
『来年こそ惚れ直させる』
この愚弟はそう言ったのだから。
「早く起きて有言実行してみせろ。お前は俺様の恋人だろ?」
傷つけないように、壊さないように。慎重に。
触れるだけの口付けをして。
これで目を覚ましたらとんだおとぎ話だな、なんて苦笑してみたり。
そうしたら、なんということでしょう。愚弟の目が開いてるではありませんか。
愛する者の口付けで目を覚ます、なんておとぎ話のようなことが実際に起こるなんて誰が予想できたでしょう。
ベタベタな展開過ぎてどう反応していいのかもわかりません。誰か俺様に正しい反応の仕方を教えてください。
とりあえず殴ればいいですか。
「オハヨーゴザイマスお兄様」
いや、王子様か?
開口一番そんなことを言うものだから思わず腕を振り上げてみたけれど、それは力なく垂れ下がり弟の腹部に置かれました。
目覚めたから愚弟から弟に格上げしてあげます。俺様優しい。
「愛の力ってすげーな」
感慨深そうに言うのもだからどうしていいのかわかりません。愛の力って。いや、そうなのだけど。そうなのか?
バカじゃねーの。そう呟いた声は笑えるほどに震えていて、ちゃんと言葉になっているかどうかも怪しいものでした。
「俺ってば愛されすぎじゃね?」
なんて言いながら動きの鈍い腕が俺様の頭に乗せられてしまったので、声を殺して泣いたのでした。
「来年こそ期待してるからな?」
泣きすぎてカスカスになった声でそう言えば、弟は引き攣ったような笑い方をしました。俺様はそんなに怖い顔をしていたのでしょうか。
していたのでしょう。弟の瞳に映る俺様は、それはもうとても楽しそうだったので。
こんな弟を、恋人を、俺様はどうしようもなく愛しちゃってるんです。
「全部聞こえてたって言ったらどんな顔するだろうな」
今も、あの時も。自分の声が全部筒抜けだったなんて知られたら、兄はどんな反応をするだろうか。
いつか告げようとは思うけれど、今はまだ俺だけの秘密だ。
一応ヒントは出したけれど、それに気付くかどうかはまた別の話だろう。
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