1.絆の始まり


うちのクラッシュとフラッシュは双子ではない。
機体自体は同時期に完成したが人格プログラムの起動誤差によりフラッシュの誕生が遅れた。
双子であろうとなかろうと心が繋がることはないはずだが、何故か気持ちが通じ合っている。
恋とか愛とかじゃなく、ただ通じ合っている。
心が同じなんじゃない。何故かお互い分かり合っている。
これが当サイトでのクラッシュとフラッシュに関する最低限の定理。


クラッシュは周りと少し距離をとっています。
それは皆が嫌いというわけではなく、一人の時間というものをとても大切にしているから。それは皆承知のことなのでした。
その気になれば全てを破壊しつく力を持っているクラッシュはできるだけその力を抑えようとしています。
普段は皆と愉しく暮らしているが、ふと全てを破壊したいという衝動に駆られることがあります。
そんなときは一人自室に篭り自分を押さえつけているのです。
何もなくなってしまった後の世界がどれほどに悲しいか知っている彼だからこそそんな葛藤に悩まされるのです。

クラッシュはワイリーさんの留守の時に一度だけ暴走したことがあります。
そのとき彼は仲間を粉々にし、研究所自体も破壊してしまいました。
そして彼が街にまで向かおうとしていたそのとき、彼は我を取り戻しました。
気がつけば誰もいない、何もない風景がそこにあったのです。
彼は困惑しました。

これは自分がやったのか、と。

そこへワイリーさんが戻ってきたのです。
「これは・・・!何があったのじゃクラッシュ!!」
「博士・・・俺が・・・俺が・・・」
クラッシュは涙を流しその場に倒れこみました。
幸い皆の核は傷ついてはいなかったので簡単に再生させることができました。
誰もクラッシュを責めはしませんでした。ただ一人を除いて。
その一人はずっとクラッシュを責め続けました。仲間の制止も聞かずに。
クラッシュは自分のしたことの重大さを知り一人自己嫌悪に入っていたので、皆の優しさも、一人の責め立ても、クラッシュを追い詰めるには十分だってのです。
クラッシュが自らの命を絶とうとしたとき、その一人がクラッシュを止めたのです。
「そんなことは許さない、お前の命が消えたところで俺達の傷は癒えやしない、お前一人が苦しいわけではない、それでも死にたいというのならば俺がお前を殺してやる」
クラッシュはもちろん殺して欲しいと頼みました。
しかし、相手は断りました。
「今はまだ殺さない、もう一度おまえ自身が壊れそうになったとき、俺はお前を殺す、それがお前が殺して欲しいと願う時だからだ」
相手はこうも言いました。
「お前が二度と暴走しないと誓えるのなら、俺はお前を許そう」
その言葉にクラッシュは再び涙を流しました。
「ああ、お前がそう言ってくれるなら俺は誓おう、お前の為に。そして、その誓いが破られたとき、おまえ自身の手で俺を葬ってくれ」


クラッシュは一番距離の近いこの弟が何よりも大切なのでした。
だからフラッシュの責めが一番辛かったのです。だからフラッシュが許すと言ったことが何よりも救いだったのです。
フラッシュはというと、普段はクイックに突っかかりぎみのくせにクラッシュが壊れそうなときは誰よりも速くクラッシュの元へ行ってあげるのです。そのときだけは、クイックのことも目に入ってはいないのでした。そしてクラッシュの部屋で一緒に苦悩を味わうのです。フラッシュだって愛しい兄を自らの手で葬りたくはないのです。
そんな二人を見て嫉妬してしまうクイックがいるのです。


つまりうちのクラッシュとフラッシュは双子以上の深い絆を持った兄弟なのでした。

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