恋人の日
恋人の日2010
一昨年も去年も俺が仕事あったりしたから、一緒に過ごす時間がなかったのは仕方ないと思っている。
だからこそ、今年は一日そばにいてやろうと、そう思った。それなのに。
「ごめん・・・」
本当にすまなそうに話すクラッシュには何の罪もなく。
「なるべく早く帰ってくるから・・・な?」
「クラッシュー準備できたかー?」
「い、今行くー!」
この日に限ってクラッシュを連れ出すメタルが今はただ無性に腹立たしくて。
「夜までには絶対帰ってくるからなー!!」
そう言いながらメタルのもとへ走っていくクラッシュを、苦笑いで送り出した。
「クイック・・・頼みがある」
「大丈夫だ、メタルはあとで俺がシメておく」
実際、クラッシュが言った通りに夜には戻ってきた。クイックも帰宅したメタルの首をつかみながら基地の奥の方へと消えて行った。
「クイックどうしたんだ?」
「さぁな」
訪ねてくるクラッシュに、俺はなにも知らないという顔で答えた。
メタルのことはクイックに任せるのが一番だ。こういうときだけは感謝するぜクイック。
「なぁ星見にいかねぇ?」
「・・・星?」
いきなりの発言に少しばかり沈黙してしまったが、そんな俺の様子を気に留めることもせずに言葉を続けた。
「もう桜も散って夜桜どころじゃないだろ?でも星ならいつでも見れるからさ」
そういえば花見に行って以来、桜を見に行くことも、二人だけで出かけることもなかった。
お互いに忙しかったというわけではないが、外に出る時間というものを作れなかったのだ。
「それに、途中でスターに会ったんだけど、今日は星がきれいだから、見に行っておいでって」
「ふーん・・・」
そういうわけで、前に花見に来た山に来ていた。ここは基地に近く、人もいないから静かでいいところだ。
「本当にキレイな星空だなー」
大きな木を背もたれにし、持参した酒を酌み交わしながら星空を見上げる。
元々そんなに強いわけではないクラッシュは早い段階で酔い始め、俺にもたれ掛かるようにして今にも寝てしまいそうだった。
「アンタもお疲れさん」
背もたれにしていた木の上を見つめながら酒の入ったコップを差し出してみる。すると、
「あれ?見てたのバレてた?」
なんて言いながらひとつの影が地上に降りてきた。その影の正体はスターだった。まぁ正体など最初からわかっていたことだが。
こいつがクラッシュに星を見に行くことを勧めたと聞いたときから。
「こいつは気づいてなかったみたいだけどな」
すっかり睡魔に襲われてしまい、俺に膝枕される形で寝ているクラッシュの頭を撫でながら言う。
時折触れてみる肌は柔らかく、まるで猫を撫でているような感覚に陥る。
首元を撫でてみればくすぐったいのか首を曲げるような仕草も見せる。それが無性に愛おしく感じた。
「アンタだろ?この星空作ったの」
「作ったなんて、そんな言い方しないでよ。ボクはただ、星たちの本来の輝きを引き出してあげただけだよ」
差し出したコップを手に取り、俺たちの正面に座りこんだスターは静かに空を見上げていた。
その目が少し寂しそうに見えたのは、気のせいだったのだろうか。
「ふらっしゅー・・・」
しばらくすると、膝の上から気の抜けた声が聞こえた。
「寝言・・・か?」
様子を見てみるも、起きている様子もなく、寝言でも名前を呼ばれることに対し、なんとも言えない幸福感・・・というのだろうか、そんな気分に包まれる。
上機嫌で見つめていると、また口を開きそうになり、今度はどんな言葉が飛び出すのかと思った刹那。
「だいすきだぞー・・・」
「・・・っ!!」
寝言だと、わかっているのに。その顔は、その声は、その言葉は反則すぎる。
思わず顔を背けた。自分でもわかるくらい顔が熱い。これは決して酒のせいだけではなく、むしろ酒のせいではないことくらい、わかっている。
そんな俺の状態をクスクスと笑う声がする。
「お前いつまでいるんだよ!!」
「そんなに大きな声出したらクラッシュ起きちゃうでしょー」
「うるせーな!帰れよ!!」
「はいはーい帰りますよー」
夜空の星が照らし出す光の中では、俺の紅潮した顔さえも見られていることはわかっている。
照れ隠しのために大きな声を出してしまっていることも、そしてクラッシュを起こしてしまうのかもしれないということも。
「それにしても、しあわせそうな顔してるねー」
クラッシュの顔を覗き込むようにして笑いながら言う。
そうだ、その顔を見てしまったから目眩を起こしそうなくらいの熱が顔を襲ったのだ。
「・・・そうだな」
「君も、だよ?」
肯定の言葉を発せば、まるでクラッシュではなく俺に直接言っているかのように言葉を返された。
「うっせ・・・」
その言葉に否定することもできず、その結果スターは笑みを絶やすことなく満足そうに静かに去っていった。
スターの姿が見えなくなり、気配も感じなくなってから、誰にも、クラッシュにさえも聞かれたくない本心を小さく呟いてみる。
「・・・俺だってお前が好きだよ。狂うくらいにな」
もっとも、もう狂っているのだろうけれど。不思議と嫌ではない。
このまま狂い続けて、いつか壊れてしまっても、何の悔いもない。それくらい俺は・・・。
これを独占欲や執着心と言わずになんと言うのだろうか。
そんな邪心とも呼べる本心を振り払うかのように残りの酒を一気に飲み干した。
「クラッシュ、帰るぞ。朝帰りするとメタルがうるせーし」
「んー・・・?」
あまりに気持ちよさそうに眠るクラッシュを起こすのは不本意だったが、このままここにいるわけにもいかなかった。
「おんぶしてけー」
体を起こしてやると、今にも眠りにおちてしまいそうな目で見つめてくる。
「はいはいわかりましたよお兄様」
本当に、愛しくて仕方のない奴だと思った。
「こんな時間まで何処行ってたんだ!?兄ちゃん心配しただろ!!」
「・・・」
帰宅した瞬間にメタルに見つかり説教を受けるはめになった。せっかくの気分が台無しになったのは言うまでもない。
「よしメタル、ちょっと奥で話そうか?」
「え、ちょ、クイックなんで起きて・・・!?」
同じような、というかまったく同じ光景をこんな短時間に見るとは思っていなかった。
・・・ありがとうクイック、兄とか呼びたくないけど俺はお前のそういうところが頼れると思うぞ。
「来年は外泊でもしてみるかねぇ・・・」
まぁ、メタルとかメタルとかメタルが邪魔してくるんだろうがな。
.
一昨年も去年も俺が仕事あったりしたから、一緒に過ごす時間がなかったのは仕方ないと思っている。
だからこそ、今年は一日そばにいてやろうと、そう思った。それなのに。
「ごめん・・・」
本当にすまなそうに話すクラッシュには何の罪もなく。
「なるべく早く帰ってくるから・・・な?」
「クラッシュー準備できたかー?」
「い、今行くー!」
この日に限ってクラッシュを連れ出すメタルが今はただ無性に腹立たしくて。
「夜までには絶対帰ってくるからなー!!」
そう言いながらメタルのもとへ走っていくクラッシュを、苦笑いで送り出した。
「クイック・・・頼みがある」
「大丈夫だ、メタルはあとで俺がシメておく」
実際、クラッシュが言った通りに夜には戻ってきた。クイックも帰宅したメタルの首をつかみながら基地の奥の方へと消えて行った。
「クイックどうしたんだ?」
「さぁな」
訪ねてくるクラッシュに、俺はなにも知らないという顔で答えた。
メタルのことはクイックに任せるのが一番だ。こういうときだけは感謝するぜクイック。
「なぁ星見にいかねぇ?」
「・・・星?」
いきなりの発言に少しばかり沈黙してしまったが、そんな俺の様子を気に留めることもせずに言葉を続けた。
「もう桜も散って夜桜どころじゃないだろ?でも星ならいつでも見れるからさ」
そういえば花見に行って以来、桜を見に行くことも、二人だけで出かけることもなかった。
お互いに忙しかったというわけではないが、外に出る時間というものを作れなかったのだ。
「それに、途中でスターに会ったんだけど、今日は星がきれいだから、見に行っておいでって」
「ふーん・・・」
そういうわけで、前に花見に来た山に来ていた。ここは基地に近く、人もいないから静かでいいところだ。
「本当にキレイな星空だなー」
大きな木を背もたれにし、持参した酒を酌み交わしながら星空を見上げる。
元々そんなに強いわけではないクラッシュは早い段階で酔い始め、俺にもたれ掛かるようにして今にも寝てしまいそうだった。
「アンタもお疲れさん」
背もたれにしていた木の上を見つめながら酒の入ったコップを差し出してみる。すると、
「あれ?見てたのバレてた?」
なんて言いながらひとつの影が地上に降りてきた。その影の正体はスターだった。まぁ正体など最初からわかっていたことだが。
こいつがクラッシュに星を見に行くことを勧めたと聞いたときから。
「こいつは気づいてなかったみたいだけどな」
すっかり睡魔に襲われてしまい、俺に膝枕される形で寝ているクラッシュの頭を撫でながら言う。
時折触れてみる肌は柔らかく、まるで猫を撫でているような感覚に陥る。
首元を撫でてみればくすぐったいのか首を曲げるような仕草も見せる。それが無性に愛おしく感じた。
「アンタだろ?この星空作ったの」
「作ったなんて、そんな言い方しないでよ。ボクはただ、星たちの本来の輝きを引き出してあげただけだよ」
差し出したコップを手に取り、俺たちの正面に座りこんだスターは静かに空を見上げていた。
その目が少し寂しそうに見えたのは、気のせいだったのだろうか。
「ふらっしゅー・・・」
しばらくすると、膝の上から気の抜けた声が聞こえた。
「寝言・・・か?」
様子を見てみるも、起きている様子もなく、寝言でも名前を呼ばれることに対し、なんとも言えない幸福感・・・というのだろうか、そんな気分に包まれる。
上機嫌で見つめていると、また口を開きそうになり、今度はどんな言葉が飛び出すのかと思った刹那。
「だいすきだぞー・・・」
「・・・っ!!」
寝言だと、わかっているのに。その顔は、その声は、その言葉は反則すぎる。
思わず顔を背けた。自分でもわかるくらい顔が熱い。これは決して酒のせいだけではなく、むしろ酒のせいではないことくらい、わかっている。
そんな俺の状態をクスクスと笑う声がする。
「お前いつまでいるんだよ!!」
「そんなに大きな声出したらクラッシュ起きちゃうでしょー」
「うるせーな!帰れよ!!」
「はいはーい帰りますよー」
夜空の星が照らし出す光の中では、俺の紅潮した顔さえも見られていることはわかっている。
照れ隠しのために大きな声を出してしまっていることも、そしてクラッシュを起こしてしまうのかもしれないということも。
「それにしても、しあわせそうな顔してるねー」
クラッシュの顔を覗き込むようにして笑いながら言う。
そうだ、その顔を見てしまったから目眩を起こしそうなくらいの熱が顔を襲ったのだ。
「・・・そうだな」
「君も、だよ?」
肯定の言葉を発せば、まるでクラッシュではなく俺に直接言っているかのように言葉を返された。
「うっせ・・・」
その言葉に否定することもできず、その結果スターは笑みを絶やすことなく満足そうに静かに去っていった。
スターの姿が見えなくなり、気配も感じなくなってから、誰にも、クラッシュにさえも聞かれたくない本心を小さく呟いてみる。
「・・・俺だってお前が好きだよ。狂うくらいにな」
もっとも、もう狂っているのだろうけれど。不思議と嫌ではない。
このまま狂い続けて、いつか壊れてしまっても、何の悔いもない。それくらい俺は・・・。
これを独占欲や執着心と言わずになんと言うのだろうか。
そんな邪心とも呼べる本心を振り払うかのように残りの酒を一気に飲み干した。
「クラッシュ、帰るぞ。朝帰りするとメタルがうるせーし」
「んー・・・?」
あまりに気持ちよさそうに眠るクラッシュを起こすのは不本意だったが、このままここにいるわけにもいかなかった。
「おんぶしてけー」
体を起こしてやると、今にも眠りにおちてしまいそうな目で見つめてくる。
「はいはいわかりましたよお兄様」
本当に、愛しくて仕方のない奴だと思った。
「こんな時間まで何処行ってたんだ!?兄ちゃん心配しただろ!!」
「・・・」
帰宅した瞬間にメタルに見つかり説教を受けるはめになった。せっかくの気分が台無しになったのは言うまでもない。
「よしメタル、ちょっと奥で話そうか?」
「え、ちょ、クイックなんで起きて・・・!?」
同じような、というかまったく同じ光景をこんな短時間に見るとは思っていなかった。
・・・ありがとうクイック、兄とか呼びたくないけど俺はお前のそういうところが頼れると思うぞ。
「来年は外泊でもしてみるかねぇ・・・」
まぁ、メタルとかメタルとかメタルが邪魔してくるんだろうがな。
.