13.戻った日常


在るべき場所へ帰るために俺たちは歩き始めた。この場に着いた時には橙に染まり始めていた空も今では星が散りばめていた。

突然隣で歩くフラッシュの機体が揺れた。繋がれた手が離れていく様子を俺の視覚センサーが捕らえた。
「フラッシュ・・・!?」
「っかしいなぁ・・・立てねぇ」
尻餅をついた形で地面に座り込む弟の姿に驚愕する。右足が上手く動かないのだと言う。
それもそうだ。あれだけの負担が掛けられた核で此処までの道のりを辿るのは困難だったはずだ。

俺は壊すのも壊れるもの慣れているから今回の破損も大したことはないと思っている。実際は絶対安静を余儀なくされるほどの損傷。それでも俺は自身との決着のために動いた。
だから少しの痛みも平気だった。だけどフラッシュは俺に比べると装甲が薄い上に核への負担も大きかった。
そのほどの傷を抱えながらもフラッシュは動いた。自らこの場所に足を運んだ。
その理由はわからないけれど、原因を作ったのは俺なんだと申し訳ない気分になった。

「安心したのかもしれねぇな」
「え?」
「やっとお前と話せて、心を取り戻せて、安心したんだと思う」
そう言って笑う様子を見て、俺の心もどこかスッキリした感じがすることに気付いた。
同じ気持ちであることに少しだけ照れくさくなってしまった。
そんな顔を見られないように背中を弟に差し出した。

動けなくなってしまった弟を背負い足を進める。
「ったく・・・俺様だって万全の状態じゃねーんだぞ」
「それでも頼りにしてるぜ、お兄様」
背中を差し出したのは俺なのだから、俺がなにか文句を言うのは間違いな気がしたが、そんなことはもうどうでもよくなってしまっていた。
「・・・もっかいお兄様って呼んだらぶっ壊すからな」
「へーへー」
口論はいつまでも終わらなかった。それと同時に笑い声も絶える事はなかった。



そうして基地にたどり着いたのは夜が明けたときのことだった。
入り口には博士と兄弟が全員揃って俺たちを迎えてくれた。
絶対安静の命を破り、帰りが遅くなったことに対してメタルから叱られた。少しだけムカついたけれど、俺たちを心配してのことだったので大人しく説教を聞いていた。
フラッシュを背負っての状態だったから、結構辛かったが。

メタルの説教が一区切りついた時、博士の視線に気付いた。何かを言うわけでもなく、ただこっちを見つめているだけだった。
「心配かけてごめんなさい博士」
駆け寄り、告げる。一番心配させた創造主、我らが父に。
だが博士は
「なぁに、親の仕事は子供を心配するとこじゃ。気にするな」
と笑いながら俺とフラッシュの頭を交互に撫でた。

「誰もお前たちを責めはしないし、これからも責めることはない。だが、忘れないで欲しい。こんなにも多くの兄弟や仲間がお前たちの帰りを待っていることに」

辺りを見回せば、所々に部下の姿も見えた。小さな声で俺たちを呼ぶ声を聞いて、俺とフラッシュは顔を合わせて笑った。
そしてその場にいる全員に聞こえるように告げた。

「「ただいま」」


その日から日常が戻った。


「そういえばなんでお前、俺の前だと一人称変わるんだ?」
「あー・・・特に意味は無ぇ。無意識だしな」
俺がフラッシュの前で一人称を変えたのは本当に無意識のことだった。今でもその癖は直っていないし、直そうとも思わない。一人称が変わることで特別な存在だと思えるから。
「なんだよそれ」
フラッシュが笑った。そのとき部屋の扉が開いた。
「クラッシュ、久しぶりに組み手やるか?」
入ってきたのはクイックだった。最近よく俺のところに来てくれる。いや、これが本来のクイックだ。フラッシュが目覚める前はこうして組み手の誘いに来てくれたものだ。
「おーやるやる!!フラッシュは?」
思えばフラッシュと対戦したことはなかった。
「電子戦なら相手してやってもいいぜ」
「それでしか勝てねぇもんな」
「速さが取り得なだけのゴキブリが何を言ってやがる」
「だったらテメーも時止めることしかできないただのハゲだな」
「あ?やんのかこのV字野郎!!」
このやりとりも久しぶりな気がする。うん、やっぱり俺はこの空気が好きだな。
だが、
「とりあえず俺の部屋で暴れんな馬鹿兄弟共!!」
「「ギィヤァァァァァァ!!!」」

・・・多分俺が何も壊さない日が来ることはないんだろうな。うん。
でもこんな日常も悪くない。そう思えるから。

「わり、二人共」
返事は返ってこなかったが、まぁ大丈夫だろう。だって俺の兄弟だし。

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