12.青と橙


「フラッシュ・・・!」

声が、響いた。
一番聞きたかった、だけど聞くのが怖かった。

振り向きたくない。それでも振り向かないわけにはいかない。
来てくれたのだ。兄は、俺のために。

「フラッシュ・・・俺様・・・!」

駆け寄ってくる兄の姿を捉えてしまった。
今にも泣きそうな顔を見て、胸が締め付けられる想いになった。

俺はお前にそんな顔をさせることしかできないのか・・・。

駆け出し、抱きしめた。精一杯の力で。

「ごめん・・・ごめんな・・・!!」

泣きながら謝ってくる兄を抱きしめながら

「お前は悪くない・・・俺の方こそ・・・ごめん」

守れなくて、伝えられなくて。

「もう忘れたりなんかしないから」

守ると誓ったのは、幼いときから。

「悔しいよ・・・ずっと一緒にいたのに」

ずっと隣にいたのに、忘れてしまっていた。

記憶が消えた方がよかったなんて思ったことも、ただ現実から逃げたかっただけなんだ。

「俺様は、お前が一緒にいてくれてよかったと思ってる・・・だけどそのせいでお前の時間を無駄にさせた」

・・・そんなこと、言わないでくれ。

「俺が自分の時間をお前に捧げたのは俺の意思だ。だから、そんな風に言われたら俺の存在を否定されたことになる・・・」

だから、お前だけは、俺の存在を否定しないでくれ。

「否定なんかしない!お前が一緒にいてくれたから俺様は・・・!!」

「・・・っ!」

ここまで互いの気持ちがわかるというのに、俺はなにを恐れていたんだろう。
俺たちに、恐れるものなんか何もなかったんだ。
それが俺たちだ。


風が吹く。二人の間に優しい風が。まるで包まれているかのように体を取り巻く。



青と橙、二つの色が混ざり合うとき、二人の想いが重なるとき、全てが動き出す。
この場所で止まっていた時間、失くした心、全てが動き出す。

俺の隣には、お前がいて欲しい。

お前の隣には、俺がいるから。


「帰ろう、俺様たちの在るべき場所へ」

「・・・ああ」

兄の手を握り締め、共に歩き出した。これまでも、そしてこれからも、この手を離したりなんかしない。

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