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Get Love, Give ……?




あれから、もう何ヶ月も経った。
休みの前の日は決まって終電までか、それを逃すほと働いていた。
そんな日の深夜は、たまにだが、あの人が来てくれていた。
数週間空く時もあれば、二ヶ月も来ない時もある。
毎回という訳では無いが、あの人は来てくれる。
今日も十一時を過ぎてしまった。
終電まであと一時間以上あるが、もう頭は回らない。

「寝たい……」

が、それ以上に会いたいというのが、脳裏に浮かんだ。
今日は来てくれるのだろうか。
そもそも、彼はいつから待っているのか。
終電前に会社を出ても、終電後に出ても、彼は優雅に待ってくれている。

「流石に、今日は来ないだろうな……」

星なんて見えない窓辺に立ち、今日何度目かなど分からないため息を吐いた。
そして、それと同時に目に入ったものに、驚きの声が上がってしまった。

「え……、い、る?」

あの人がいる。
あの人が、来てくれている。
俺の仕事がいつ終わるかなんて、分からないのに、彼はこの時間から待ってくれている。
いや、もしかしたら、もっと前から……。
あと何を終わらせればいいんだ。
脳みそをフル回転させ、持てる限りの力で資料作りを終わらせる。
それでも、三十分以上掛かってしまった。
早く、早く、あの人のところに。
上着と鞄を持ち、急ぎ足で彼の元に。

「さ、左馬刻さん!」
「ん?」
「あ、あの、お待たせして、すいません」
「別に、待ってねーが」
「え、いや、でも……」
「さっさと乗れ」
「っ!はい……」

その笑顔は反則だ。
彼はたまに笑ってみせる。
きっと、同じチームの人には、毎回見せているのだろう。
でも、俺にも見せてくれるようになったことが、嬉しくて嬉しくて、堪らない。



今日は高級ステーキ屋だった。
目の前で好きな量で焼いてくれる。
こんな深夜にやっているというのが、新宿のいい所だ。
眠らない街だけある。

「……美味しい」
「あぁ、美味い」
「左馬刻さんは食べなれているんじゃないですか?」
「まぁそこそこな」
「俺は全然食べないので、連れてきてくれるのが、嬉しいです。ありがとうございます」
「……そうか」

あ、この人でも照れるんだ。
その顔も反則だ。
最近、会う度に会話も増えてきた。
初めの数回は、無言で食事をすることも多かったが、最近は話しを振ってくれるし、聞いてもくれる。
嬉しい。
その感情が生まれたことに違和感はなかった。

「あ、これも美味しそう……」
「頼んでいいぞ」
「……でも、あ、左馬刻さん。良かったら、半分食べてくれませんか?」
「ん?」
「もう、満腹に近いんですけど、食べたいので……、いいですか?」
「あぁ、いいぞ」
「ありがとうございます!」

自分一人では来られない店だ、食べれるものは食べておこう。
それに普段、忙しくて食事もまともに取れない。
食べられるときに食べておかないと。
注文した物が、目の前に来ると、思わずガッツいてしまった。
ふと、彼の方を見ると、たまに見せる優しい表情で、こちらを見ていた。
あぁ、まただ。
そうやって、見守ってくれている。
彼の方が歳下だというのに、こうやって優しい目を向けてくれている。
俺の方はこんなにも余裕がないのに。
彼の方が余っ程大人だ。
ここから、どんどんネガティブになっていく。

「それ、一口」
「え、」

スプーンを持った手を掴まれ、そのまま口元まで持っていかれる。
強い力だが、優しさもある手。
そうだ、彼は俺の心を見透かしたかのように、寄り添ってくれる。
今、落ち込みかけた俺の心を感じ取って、引き戻してくれたんだ。

「さて、出るか」
「はい」

もう、三時が過ぎていたのか。
二人で会う時間は、いつも三時を過ぎると終わる。
夜明け前には、家の前に着く。
だから、いつもこの時間は短い。
俺が仕事を終える時間によって、この時間が決まる。
今日のように三時間以上の時もあれば、一時間と短い時もある。
もう、この時間が終わってしまうのか。
車の助手席に乗り込み、帰路へと着く。
まだ、一緒に居たい。

「あの、左馬刻さん」
「なんだ?」
「……横浜に連れて行ってください」
「?」
「……海が、見たくなりました」
「……そうか」

嘘だ。
ただ、一緒に居たかったんだ。
この席に座っていたかった。
この人の香りを、まだ感じていたかった。
街を歩けば、似た香りの人とすれ違うと、思わず振り返ってしまうほど、俺はもうこの人の事を……。


* * *


いつもの道から、見慣れない道へと変わっていく。
遠くの方に、朝日が見えかけていた。
初めて、彼と朝を迎える。
昇り始めた太陽が、目を焼くような眩しさを覚える。
車は人っ子一人居ない浜辺に到着した。
何も言わずに、車から降りる彼を追い掛けるように、浜辺を歩く。
波打ち際で、タバコを吹かす彼の後ろ姿は綺麗なものだった。
太陽に照らされる白銀の髪は、キラキラと星のように煌めく。

「俺は、」

何を言おうとしている?
彼に何を言えばいい?

「左馬刻さん……」

だんだんと昇る太陽が、彼を照らす。
今にも光に包まれて、消えそうなくらい、儚い光を放つようにも見える彼に、目を奪われながら。

「俺は貴方に、何と言えばいいですか」

彼は優しく笑った。












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