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四季綺譚



「ふぁ〜」

もう何度目の春を迎えたのか、数えるのも辞めた春月。
そんな春を迎えた夜。
月を抱えたまま、夢現の状態だった。

「春月?」
「……ん? あれ、春恋しゅんれいちゃん」
「どうしたの? いつもしっかりしてるのに、今日は心ここに在らずって感じ」
「うん……。夢を見たの。春になるまで深く寝ちゃうから、夢なんて見ないのに、今回は珍しく」
「へぇ。どんな夢?」

美しかった。
見たことのないほどに、美しいものだった。
真っ赤に染まる葉と、黄色に染まる葉が、共に踊るように舞落ち、絨毯を作っていた。
そしてその中で、共に舞い踊るように、羽根を広げる天使が一人居た。

「あの子、髪の毛の色も、その葉っぱと同じだった。赤と黄色で……。本当に綺麗だった」
「それってさ、秋に目が覚めてたんじゃない?」
「え?」
「たまにいるのよ、春と勘違いして起きちゃう子。まぁそういう子のために、夢の天使がいるんだけど」
「秋に、起きた……」
「春月が見た天使が、なんの天使かは分からないけど、きっとその子は秋の天使なのよ」
「じゃあ、私、秋を見ていたの?」
「かもね」
「……そっか」

夢だと思っていた。
あの赤と黄色の髪の毛に、右と左で瞳の色が違った。
きっと、あの瞳も赤と黄色。
春月はそれを思い出した途端、顔を真っ赤にさせた。

「どうしたの?」
「……なんでもない」

抱えてる月に顔を埋めるように、突っ伏して隠すが、耳まで真っ赤に染まってしまい、春恋にはバレバレであった。
そうだ、目が合った。
あの二色に分かれた鋭い瞳に、吸い込まれそうになっていた。
けれど、気が付いたら、春になっていた。
まだ冷たい風が残る中、春月は目を覚ました。

「……また、起きられるかな」

もし夢だとしたら、もう一度見られますように。
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