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四季綺譚


寒い冬から暖かい春になる。

「おーい、ハルナっ!」
「ん……」
「起きなよ、ハルナ〜。もう春になるよー」

大きな樹の幹に、一人分の大きな穴があった。
そこには、ふかふかのクッションに縮こまり、自分の翼で体を覆う一人の女の天使がいた。
彼女は、春の月を司る天使。
春月はるるなと名付けられたが、「るが重なって呼びにくい!」と、言われてから、ハルナと呼ばれるようになった。
そしてその天使を起こすのは、雪がほんのり頭に積もらせた冬を司る天使だった。
春が近づくと、こうしてハルナを起こしに来るのだ。

「まだ、寒いよぉ……」
「最近、雪の天使が元気過ぎて、春にも雪降らすもんね〜」

桜のような淡い色をした髪の毛を弄りながら、ハルナが起きるのを待つ。
桜が咲く頃には、彼女は眠りについてしまうので、桜を見たことはないが、きっと美しいものなのだろうと、いつもハルナの髪を見ながら思っていた。

「もう少し寝る……」
「こらこら、お仕事しなきゃダメなんだから、起きるの!」

ハルナの腕を掴み幹の中から引きずり出す。
大きな欠伸をしながら、翼も広げる。

「はぁ〜……。まだ寒い」
「仕方ないでしょ、冬なんだから」

翼で自分のことを包み込む。
そして、冬の天使の頭に積もる雪を手で払ってやる。

「綺麗な白銀の髪が濡れちゃうよ」
「いつもこんなもんだから、いいよ。でも、ありがと」
「ん。雪の天使に伝えて。寒いって」
「はいはい。最近何があったのか、楽しすぎてずっと踊ってるようなのよ。少し抑えるように言っておく」
「お願い」

ハルナはもう一度大きく伸びをすると、ゆっくりと飛び上がる。
そして、空に浮かぶ月に手を伸ばし、優しく包み込む。

「さぁ、春が来るよ。また人々の心を照らしてあげよう」
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