第一章

「で? 言いたいことはあるか?」
「い、いやー、久し振りにハルの拳を受け止めちゃったよー。懐かしいなぁ、中学と高校でヤンチャしてた日々を思い出すね!」
「あぁ、ミキもここに居れば一緒にお前を殴ってくれただろうに残念だ」
「う、うんうん、ミキもここに居れば三人でお酒呑めたのにね、しまったなー、はははっ」


遥の右ストレートをくらって左頬を冷やしている忍は、へらへらとひきつった笑みを浮かべている。
遥は理由もなく無闇矢鱈には手を出さない。
ヤンチャしていた中高だった頃ですらそうだ。
しかし礼儀に反することをされた時とコンプレックスである童顔に関して言われると、途端に簡単に手が出る。
その手が出る対象として顕著なのが、忍ともう一人の親友であるミキ──深山 幹彦だ。


「ミキは店の管理で忙しいだろうからな」
「あのミキが喫茶店の店長とか笑えるよねぇ」
「良かったなシノ。これでミキに殴られる理由が二つになったぞ」
「待って、ごめんなさい!! 謝ったから言わないでっ!!」
「さっさと謝れば良いんだよ、ばぁか」


童顔について言う度にこんなやり取りをしてきたのだから、いい加減学べば良いものを。
忍は後継者として育成されてきただけあって遥ほどではないが頭は良い。
だが如何せんプライベートになると学習能力が欠落する、所謂馬鹿だ。
そして深山 幹彦というのは、遥と忍と共にヤンチャしていた仲間で、現在父親が経営していた喫茶店を継いで店長をしている。
その喫茶店の名は"ルミナ"──星の光、という意味だ。


「で?」
「え?」
「さっき言ってた、生徒として一ノ宮学園に来いってのについて説明しろよ」


遥の言葉にポカンと口を開ける忍。


「受けてくれるの…?」
「話聞いてからだ。まぁでも、理由が何であれ、内容が何であれ、受けるつもりではいる」
「そんなこと言って、俺が酷いお願いしたらどうするの」
「殴るから安心しろ」
「そこは受けるって言ってほしかったかなっ!」


勢いを削がれたように机に突っ伏する忍に、遥は肩を震わせた。


「馬鹿だな、お前は。そもそも、そんな質問をする意味がない」
「何で?」
「お前は俺に酷いお願いなんて、しないだろ?」


揺るぎない信頼を称えた瞳に射抜かれた忍は、パァァッと表情を明るくして遥に抱きついた。


「もう…、もうっ!! ハル男前!! 大好き!!」
「はいはい、分かったから話を聞かせろよ、シノ」
「あ、そうだった。えっとねぇ、今一ノ宮学園には二大勢力があるんだ」
「大方、生徒会と風紀とか言うんだろ」
「流石ハル、御名答」


にこりと肯定する忍は一ノ宮学園について話し始める。
一ノ宮学園の生徒会は人気投票で決まる。
所謂、抱きたい抱かれたいランキングというやつだ。
親衛隊も多く存在する。
それに対抗する組織が風紀委員会。
此方は厳格な指名制で決まるらしく、相反する性質のこの二つの勢力は仲が悪い。
それ故に何かと揉め事が多いとのこと。
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