このサイトは1ヶ月 (30日) 以上ログインされていません。 サイト管理者の方はこちらからログインすると、この広告を消すことができます。

第二章

清原は実はな、と切り出した。


「アイツ、去年同室者と問題起こして同室者が転校したんだ」
「問題、ですか」
「詳しくはお互い頑として語らなかったんだが、その同室者が酷い怯えようで」


一度は部屋を移動したらしいが、やはり同じ学校にいること自体が堪えられなかったらしい。
その同室者はその少し後に転校し、結果速水は一人部屋状態になったと清原は語る。


「元々速水は不良って外見してるんだがそれから更に周りから怖がられてな。今は一匹狼って言われてる」
「…よく分かりませんね。それなら速水君が転校させられそうなのに、何故同室者の方が転校したんですか?」
「それが実質的に速水は部屋を荒らした程度で一週間の停学処分が下された。だからそれ以上の処分が出来なかったらしい」


なにせ二人とも真相を言わなかったからな、と肩を竦めながらエレベーターに乗り込む。
四階のボタンを押すと、ゆっくりと上がっていくのを感じた。


「どうして言わなかったんでしょうか」
「速水が脅したからっつー噂があるが、俺はそう思えねぇ」
「何か理由が?」
「速水は芯のある不良だと思うからだ、…勘だけどな」


そう付け加えると、清原はにっと笑った。
だからお前も噂に惑わされないでやってくれ、と言われた遥は深く頷く。
遥の役目は一ノ宮学園の内情を大なり小なり探ること。
清原から聞いた話は頭には入れておくが、それを先入観にして見るつもりはない。
自分で見て思って考えたことを忍に伝える、それが誠意であるからだ。
じゃあこの話は終わりだ、と言って清原は別の話題に移る。


「寮の規則として守ることはただ一つ。寮内で治安を悪くするようなことはしないこと」
「例えば何ですか?」
「共同スペースで盛る」


先程の香坂か。
それを破るとどうなるんですかなんて野暮なことは訊かない。
蛍光灯を武器と宣う青年が追いかけてくるのは目撃済みだ。
今回は遥がいた為見逃したようだが普段の罰は何となく想像出来る。
四階に着いてエレベーターから出て足を進める清原について行く。


「部屋の中だったら何も言わねぇから…っつか、お前ノンケか?」
「そうですね。でも偏見はありませんよ」
「そうか、ならいらねぇ忠告だったな。ほら、ここだ。405号室」


足を止めたのは405と書かれている扉の前。
すぐ横の壁には『速水恭介』と『緒方遥』の名前が書かれたプレートが留められている。
そしてその下には縦一直線に溝が入っている機械があった。


「学生証持ってるよな。鍵開けるカード」
「はい」
「それをこの溝に通す…と」


忍から受け取ったカードをその機械に通すと、ピッという音が聞こえてガチャッと鍵が外れたような音が鳴った。


「これで開錠される。ちなみに他の部屋を訪ねる時も同じようにこのカードを機械に通す。自室以外だったら呼び鈴が鳴る仕組みになってんだ」
「なるほど、学生証って大切なんですね」
「部屋の外出る時は絶対携帯しておけよ」


はい、と遥が頷くのを見てから清原は扉を開けた。
靴がある、ということは速水は中にいるということだ。


「速水ぃーっ!」


清原は大きな声で中に向かって速水の名前を呼ぶ。
すると少ししてから微かに音が聞こえて足音が近付いてきた。
清原が言うには不良らしい外見ということだったが、いったいどのような生徒なのだろうか。
これから一緒の部屋になる身だ、第一印象はちゃんとしないとなともっさり頭のビン底眼鏡姿の遥は思う。
そして中から清原を見て不機嫌そうに眉根を寄せた青年が出てきた。
マンダリンオレンジの髪を首の後ろで一つに束ねたその青年の顔を見て遥は、ん? と思わず声を出しそうになる。


「よぉ、速水」
「何で呼び鈴鳴らずに扉開いてんだよ、出ていけ」
「同室者になる生徒連れてきた。言ってただろ」
「同室者…?」


清原の言葉にようやく気付いたという風に速水は遥に視線を移した。
速水のその声、その鋭い視線に遥は、あぁやっぱりと心の中で呟いた。
俺はコイツを知っている。
しかしそんなこと露にも感じさせないように口元に笑みを浮かべた。


「初めまして、二年の緒方遥です。今日から…」


よろしくお願いします、と言い終わる前に速水は部屋の中に戻ってしまった。
言葉を止めた遥は清原と顔を見合わせる。


「…まぁ、入って良いっつーことじゃねぇの?」
「そういうことにしておきましょうか」
「ははっ、お前ならやって行ける気がするわ」


ぽんぽん、と頭を撫でられる。
年下に撫でられるなんてと普通なら憤りを覚えるのだろうが、もう一人の親友である幹彦がよく頭を撫でてくるので特に抵抗はない。
7/10ページ