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第一章

「神谷先輩」


静かだった生徒会室に声が響く。
静かだったのは皆が真面目に仕事をしていたから…ではなく、見た所木下先輩は落書きしてたし真白先輩は居眠りしてたから。
野崎先輩は向かい側だからよく見えなかったけど、何か面白そうに笑ってたから仕事をしていたわけではないようで。
つまり神谷先輩だけが真面目に仕事をしているという状況。
ほんと…苦労してるんだな神谷先輩…。
神谷先輩は俺の呼び掛けに顔を上げた。


「どうした。何か分からない所でもあったか?」
「いえ、終わりました」
「…は?」
「だから、打ち直し終わりました」


俺はUSBを目を瞬かせている神谷先輩に渡す。
本来なら生徒会長の真白先輩に提出すべきなんだろうけど、ほら…真白先輩居眠りしちゃってるからさ。
あ、今もそもそ動き出して…顔上げた。
寝ぼけ眼なのにそれがまた綺麗な顔で。
俺がンな寝ぼけた顔してたら、貴志に頭叩かれるのがオチだな。
そんなことを考える俺の前で神谷先輩は俺が入れたデータを確認する。


「…確かに、終わってるようだな」
「じゃあ俺帰りますね。お疲れ様でした、また明日」


パタン、と何の余韻も無く生徒会室の扉が閉まる。


「…え? あれ? 蓮君帰った? もうそんな時間?」


寝ぼけたように壁に掛かる豪華な時計に目を向けた真白は、首を傾げる。


「…まだ三十分も経ってない…?」
「速過ぎる。有能どころの話じゃないぞ」
「ねぇねぇ! 僕ちょっとレンちゃんのタイピング見てたんだけどね、凄いんだよっ!!」
「見るな、自分の仕事しろ」
「聞いてよ、ジュンちゃ~ん。レンちゃん、最初の一回見ただけでタイピングしてたの! 僕の書記資料っ」
「…一回見ただけで覚えたってこと?」


多分ねっ、と興奮気味に頷く木下に神谷は渋面になる。


「そんなに優秀なら何故如月の噂が立たないんだ…? 」
「外見の平凡さが能力目立たなくしてるんちゃうの?」


野崎がカチカチとマウスをクリックしながら話に入る。


「蓮君ったら自分で雑用係から抜けられるチャンス潰しちゃってるよね」
「レンちゃん媚びてこないから好き~」
「如月がいたら俺の過剰分の仕事が減るから助かるな」


真白と木下、神谷が蓮に関して好意的な言葉を口にするのを横目に、野崎はニィ、と口の端を吊り上げた。
野崎の目に映っているのは先程から何となく調べ始めたディスプレイに浮かぶ聖条学園生徒に関する資料。
生徒会には生徒の簡単な来歴を見ることが出来る権利がある。
しかし『如月 蓮』を何度クリックしても出てくるのは。


「ほんま…おもろいわ」


理事長名義の【閲覧禁止】の文字のみ。
容姿端麗、文武両道、家柄良しだけでなく、外面良し──すなわち内面と外面が生徒会で唯一一致していない生徒会役員、野崎 隼人は、良い暇潰し見つけたわ、と密かに黒い笑みを浮かべた。
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