第一章

「せ、生徒会長!? 真白先輩が!?」
「うん、そうだよ」
「ほんまに知らんかったんやなぁ」
「あれ? じゃあ何でユイちゃん連れてきたの?」
「僕もついて行くって言ったんだ」
「だから俺は二年生から出された生徒会雑用係だと思って…」


マジでか。
外で倒れたように寝てた人が、まさかの生徒会長とか…。
あー、でも納得。
俺と同じ雑用係ってよりは、容姿端麗集団の生徒会役員って方が頷ける。


「雑用係、なぁ。ほんま珍しいわ。喜んでお手伝いさせていただきますぅ、って言う子が来る思てたし」
「僕らと一緒にいれば、コネ手に入るかもよ~?」
「どうでも良いです。それより仕事言って下さい。早く帰りたいんで」
「…本当に興味ないんだね、蓮君は」


だってコネとか、一般的な生活を目指す俺には必要ないし。
でも少しぐらい興味あるフリしとくべきだったかな?
何のために社交辞令という言葉があるのかって話になるよな。


「興味はありませんけど、コネとやらについて話したいならどうぞ」
「ぶはっ。興味ない言うたらアカンやろ」
「僕、レンちゃんのこと気に入っちゃったな~」
「駄目だよ木下。蓮君は僕が先に見つけたんだから」
「見つけられた、の間違いだろう真白」
「え、何で気に入ったとかいう話になってんですか」


止めてくれよ、親衛隊に目ぇ付けられちゃうじゃん。
というか、俺のどこに気に入る要素があるんだ。
あれか、平凡は逆に珍しいのか。


「如月。お前には暫く生徒会室に通ってもらう」
「暫く、とは?」
「僕らが『この子邪魔だな~』って思うまでっ」
「恵クン、言葉気ぃ付けな。しかもそれ言うたら他の子ならまだしも、蓮クンは頑張るどころか邪魔ばっかしよるで」
「いや、早く帰りたいのは山々だけど、邪魔はしませんよ流石に…」
「まぁ、とにかく落ち着くまでかな。良いかな、蓮君」
「まぁ、はい、分かりました」


明確な期間が設けられないのは不安…というか面倒だけど仕方ないか。
聞けば、聖条学園の運営はほぼ生徒会に任されてるらしいし。
理事長は出張とかであまりいないんだってさ。
特待生って学園、つまり理事長にお金出してもらってるわけだから一回ぐらい挨拶に行きたいんだけどなぁ。
まだその機会が得られない。


「今日はコレをパソコンで打ち直すだけで良い」
「…手書きのプリント? 最初からパソコンに入力すれば良かったんじゃ…」
「僕ね~、パソコン嫌いなの。だから書記ばぜぇんぶ手書きっ」


に、二度手間…。
何で木下先輩が書記なんかやっちゃってるんだよ…。


「恵クンは一言一句違わず聞き取って書き記せるからなぁ。しゃーないわ」
「成る程…適材適所ってやつですね。打ち直しっていつも誰の仕事なんですか?」
「僕だよ」
「…なのに真白はサボってばかりだから全て俺に回ってくる」


真白先輩って綺麗で優しいのに俺と同じぐらいかそれ以上サボり癖があるんだな。
諦めたような神谷先輩に涙が誘われる。
俺の地元の友達にもこういう人がいるから、他人事とは思えない。


「…頑張ります」
「潤クンに同情の視線向けるコ、初めて見たわ…ぶふっ」
「…じゃあ頼む。如月はそこで作業してくれ」
「はい」


パソコンも準備されてる机に向かう。
生徒会長の席から一番遠くて扉に一番近い席。
隣には木下先輩が頑張れ~、と呑気に応援しながら座り、向かい側には野崎先輩が、野崎先輩の隣には神谷先輩が座る。
何か俺も生徒会のメンバーみたいな位置だな…なんつー場違い。

さて、と俺は口の中で呟く。
今日はコレをやったら帰れるんだよな。
ならさっさと終わらせよう。
俺はざっと木下先輩が作成した手書きの会議内容に目を通す。
そして少し目を閉じて。
カタ、とキーボードの音を鳴らし始めた。
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