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第一章

☆☆


あえて言おう。
迷ったと。


「聖条広すぎだろ…」


放課後、俺は奏に言われた通り生徒会室に向かっていた。
貴志には「一緒に行く」と言われたけど、ガキじゃないんだからと断った。
因みに健太は補習だ。
貴志はそれでも一緒に行くと言って聞かなかったんだけど、貴志の父親からちょうど電話が来て一緒に行けなくなった。
仕事関係みたいだったな。

俺は一人苦笑を浮かべる。
昔あんな事があってから、貴志は俺に対して過保護になった。
母さんにも父さんにも弟にも死ぬほど心配掛けたし、貴志には迷惑を掛けたからそれは仕方のないことなんだろうな。
俺はいらないことまで思い出しそうな頭を振って周りを見渡す。
今現在俺は木々に囲まれております。


「あー、こんなことなら地図でも見とくんだった…」


聖条学園は私立の全寮制男子校なだけあって敷地は広大。
だけどまさか学生棟から生徒会棟までの道のりで迷うなんて…。
ま、幸い集まる時間までまだあるし、テキトーに歩き回るか。
なんて思いながら散策していると、先の方に何かがあった。


「何だ……?」


木々に阻まれてよく見えず、俺はそこに近付いていく。
んー…あ、見えた見えた。
なぁんだ、ただ人が倒れてるだけじゃん…って!!


「だ、大丈夫ですかッ!?」


俺はその人に駆け寄る。
うつ伏せに倒れているその人を仰向けにした。
い、色が白いっ!
え、これ顔色悪いのか? 元々なのか?
つーかめっちゃ綺麗な人だな…すぅすぅ寝息立ててもそれを損なわないなんて…寝息?
俺はガックリと脱力した。
何だよ寝てただけかよ、焦っちゃったじゃん。


「ちょっとおにーさん…じゃなくて、先輩? 起きて下さーい」


ネクタイの色が青なのは二年生だから、先輩だよな。
赤が一年で深緑が三年だし。
俺はぺしぺしとその色白先輩(←仮)の頬を叩く。
するとその先輩は、ん…と声を出して目をゆっくり開けた。
しばらく視線をさまよわせてバッチリと俺と目が合う。


「おは、よう…?」
「今はこんにちは、ですね、先輩。こんなとこで寝てたら四月だからって風邪ひきます。たとえ先輩がバカだとしても、バカが風邪菌に勝てるのにも限度があるんですよ?」
「……バカ? 僕が…?」


何気に失礼な説教をしてしまったな、と色白先輩の声で気付いた俺は急いで謝ろうとした。


「あー、いや、すみませ…」
「…ふふ、そう、初めて言われた。君の、名前は?」


うおっとー?
テメェの名前はなんじゃコルァの上品版来たか?
んー、でも何でか嬉しそうな顔だし、怒ってはないっぽいな。


「如月 蓮です」
「如月 蓮君…如月 蓮? 一年生の…君が…」


ぽやーっ、と起きてんのか寝ぼけてんのか分からない声と表情で頷いている。
何だろ…珍しい名前ではないと思うんだけど。
というか流石にそろそろ生徒会室に本気で行かないとヤバいな。


「じゃあ俺行きますね。先輩はもうこんな所で寝ないように」
「ねぇ、蓮君。起こしてもらったついでに、蓮君について行って良いかな?」
「へ? いやでも俺、生徒会室に用があって…」
「うん、僕も行く」


パンパン、と制服の埃を落としながら立ち上がった色白先輩は俺にピタリと寄り添ってきた。
生徒会室に何の用もない人を連れて行ったら怒られそうなんだけど。
そんな俺の表情を読みとったのか、色白先輩はふわりと微笑む。


「大丈夫、僕も生徒会室に呼ばれてたんだ」
「そうなんですか? あ~…じゃあ、先輩にこんなこと頼むのもアレなんですけど…迷ったんでむしろ俺を連れて行って下さい」
「迷ってたの? 聖条は広いからね」
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