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第一章

☆☆



「遅せーぞ。もう少しで校内放送かけるとこだったぜ」
「マジで止めろ、奏」


俺が向かった先は職員室。
目の前には外見ホスト、中身ヤーさんの俺の担任相澤 奏。
入学してから毎日雑用係として校内放送で呼ばれて変に目立ってしまったから、奏に俺の携帯に連絡してくれと頼み込んだんだ。


「んで、今日の雑用は何ですかぁ」
「やる気ねぇ声出すなよ、如月。特待生の庶民をクラスに馴染ませてやろうという担任様の心遣いだろーが」
「逆効果だっての」


むしろ敵が増えたし。
奏はヤーさんみたいなのに外見は良いから生徒から人気があって、奏が俺に構う度に鋭い視線が突き刺さる。
そういうのにはもう貴志の親衛隊で慣れたけどさ。


「お前コレ持て」
「はいは…ってちょっと。『数学抜き打ちテスト』って書いてあるんだけど」
「一時間目にするからな」
「そんなモンを生徒に持たせるなっ!」


このテキトー加減どうにかしてくれ。


「特待生様が良からぬことなんざ考えねーだろ。お前はいつものように30点ギリギリ取るんだろうしなァ」


俺たちはプリントの束を持って教室へと戻るべく歩き出す。


「お前、入試では満点の首席で合格したくせにどういう了見だコラ」
「小テストでは30点以上は補習ないし、それで良いじゃん」
「良くねぇ。最近ではお前のために引っ掛け問題大量に出してんのによォ」
「どうりで健太の点数が最近特にヒドいわけだ…」


健太は四月上旬は30点前後だったのに、今や常に補習行きだ。
バカだなー、ぐらいにしか思ってなかったけど、まさかその原因の一端を俺が担っていたとは。
重ね重ねスマン健太、そしてこれからも頑張れ。
俺は30点を取り続ける。


「お前に友情はねぇのか…」
「むしろ愛のムチでしょ。奏の意地悪問題に負けるなっていう」
「モノは言いようだな」


教室の前に着くと奏が俺の持ってるプリントの束を奏のプリントの上に乗せるように促してきたから、ボスッと置く。


「ありがとな、如月」


口の端を上げてきちんと礼を言う奏。
俺を無理矢理奏の雑用係にしたり強引なとこもあるけど、根っこの先くらいは優しいんだよな。
俺がへらっとした笑みを返すと、奏は目を見開いて舌打ちした。


「手さえ空いてれば…っ」
「? じゃあ俺戻るよ?」


手さえ空いてれば…何だったんだろう。
俺は首を傾げながら後ろの方の扉から入る。
おかえりー、と口パクする健太と目線だけを此方にやる貴志に、ただいま、と口パクで返す。


「じゃあまずHRな。いない奴手ェ上げろー。…よし、全員出席」
「ちょっと待て。俺の斜め前の奴がいないでしょーが」


一番後ろの席なのにツッコんでしまった。
出欠確認までテキトーにしてどうすんだよ。
俺がサボったら何やらかんやら言ってくるクセに。
奏が空いてる席に目を移す。


「あー…ソイツは良いんだよ。多分来ねぇだろ」


いやいや、それってどうなの? とか思ったけど、ふと思い出した。
そう言えば斜め前の席の奴、入学してまだ一回も見たことない…ってことは、三週間くらい来てないってこと!?
しかも奏にそんな風に言われるなんて…訳ありか?


「はい、HR終了。こんまま一時間目数学入るぞー。机上のモン片付けろ、抜き打ちテストをする」


うえぇぇぇ!? となんとも悲痛な声が教室に響く。
それには取り合わず、奏はニヤリと笑った。


「いつも通り30点未満は補習な」


俺は隣を見て苦笑を浮かべる。
健太の顔が絶望に覆われていた。
仕方ない、友達の為にいつもより点数取ってやるか。



結果として俺は目標通り31点を取ったんだけど、駄目に決まってんだろと引っ掛け問題大量テストは続行されることになった。
そして健太は補習行きが決定した───。
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