第一章
ピピピピッ
ピピピピッ
ピピ…ガチャ
「んぁー…もう少しぃ…」
カーテンから射す日の光を避けるべく、俺は布団に潜り込んだ。
遅くまで本読んでたからまだ眠いんだよ…。
ブー、ブー、ブー…
次は携帯が鳴り出す。
アラームなんてしてたっけ?
布団から手だけ出して携帯を掴みディスプレイを見ると、『佐伯 貴志』の名前が。
「…はぁ~い、この電話は現在如月 蓮が使っておりま~す…」
『それぐらい分かる。寝ぼけんな、起きろ』
「寝ぼけてませぇん…寝てるんです…ぐぅ」
『今そっち行くから起きてろよ、蓮』
ぷちっ、と通話が切れる。
俺は携帯を見詰めて目を閉じた。
もう貴志が何て言ってたかあやふやになるぐらい睡魔に襲われる。
「──起きてろっつったよな、蓮」
暫くして突如聞こえた先程の電話口の声に、俺はもそりと身じろいだ。
「あ~…もうちょっと寝かせてよ…」
「学校始まるだろーが。いいから起きろ」
毛布を剥がしに掛かる貴志に抵抗する俺。
でもその甲斐なくべりっと毛布は剥がされた。
四月下旬でも流石に寒い。
そして眠い。
俺はほとんど寝ぼけたまま起床を促す幼なじみを見上げる。
「たかしぃ…もっと…」
寝させろと腕を貴志に向かって上げながら要求すると、何故か貴志は固まった。
そして何か思案する格好をして顔を俺に近付ける。
ちゅっ…
頬に柔らかい感触を感じた瞬間、俺の脳は覚醒した。
「ッ!? お、おま、お前、何してんの!?」
「おはよう、蓮」
「おはよう貴志…じゃなくて! 何でほっぺにチューしてんだよ!」
「目ぇ覚めただろ?」
「荒いわ!」
「この上なく優しいだろ」
頬を押さえながらツッコむ俺に対して、しれっと言いのけた貴志。
顔洗ってこい、なんて言って俺の朝食を作るために台所へと向かう貴志を俺は複雑な表情で睨む。
女の子にされるんならまだしも、幼なじみ且つイケメン男子にされても嬉しくないっての。
チューで目覚める俺とか…鳥肌立つわ!
俺は言われた通り顔を洗う。
朝はキツいけど学校は嫌いじゃないし、一度起きてしまえば元気ハツラツだ。
リビングに行くと既にご飯と味噌汁と卵焼きが机に並べられていた。
白い湯気がまた食欲を掻き立てる。
「うまそー」
「ほら、さっさと食え」
「いただきまぁす」
はむ、と卵焼きを口に入れると甘い味が口内を満たす。
俺の好みド真ん中を熟知している貴志は、時々こうして作ってくれる。
基本的に自炊なんだけど、朝のあの電話での俺の反応によって作るか作らないかが決まるらしい。
寮での部屋も同じ階だし、電話終わってからのタイムラグは殆ど無い。
「うま~」
「そりゃ良かった」
俺が幸せ一杯に笑うと貴志も優しく笑い返してくれる。
イケメンでちょっと強引なとこもあるけど優しいって…完璧な男前さんだ。
平凡な容姿の俺とは天と地の差だよ…。
べっ、別に嫉妬なんかしないもんね!
今更だし…グスン。
「イケメン禿げろ…」
「もう作ってやんねぇぞ」
「貴志様愛してるっ!」
つい本音が洩れたところで俺は朝ご飯をたいらげる。
これで元気良く登校出来るってもんですな。