第一章
しかし…机に突っ伏して寝ても疲れ取れにくいよな。
生徒会室には仮眠室があるっぽいが、入るためにはカードが必要らしい。
俺たち一般生徒用のカードじゃなくて、生徒会専用とか多分そんなやつ。
間宮の服をまさぐるわけにもいかねぇしな。
睡眠薬飲ませてまさぐるとか、怪しすぎて犯罪臭がする。
さてどうしたものか、と眠る間宮を見て思案していると。
「間宮、例の件について話が…、…神山?」
「よぉ、山下。良いところに」
突然開かれた扉から入ってきたのは、風紀委員長の山下純一だった。
眼鏡の奥で目を瞬かせた山下は、眠っている間宮を見て目を見開いた。
「寝てる…のか? あの間宮が?」
「ぶっ倒れそうだったから、睡眠薬盛った」
「睡眠薬…君は本当に面白いことをしてくれる」
「山下、仮眠室って生徒会専用カードとかないと入れないんだよな?」
「風紀委員長が持ってるカードでも入れるぞ」
「本当か。じゃあ運ぶの手伝えよ」
風紀委員長のカードを見せてきた山下に、間宮の腕を肩に掛けるように促す。
山下は左側を、俺は右側を肩に回した。
間宮は俺より少し身長高いから若干引き摺る形になってるが、こればかりはどうしようもない。
山下が扉の機械にカードを通すと、ピッという音と共に解錠された。
仮眠室に入り、ベッドに間宮を横たえる。
移動させても起きなかった所を見ると、睡眠薬抜きにしても相当疲れてたんだろうな。
俺は間宮の目の下に浮かぶ、うっすらとした隈を指でなぞる。
曾根崎も、親衛対象がこんな状態だったら不良にだろうが頼りたくなるか。
「なんつーか…間宮は怖ぇな」
「君がそんなことを言うとは…。間宮の何が怖いんだ?」
「…一人でやり遂げようとする所とか、役員どもを信じ通しそうな所とか…」
あぁ、確かにな、とリコールを再三促してきた山下は頷く。
あと、と俺は目を伏せた。
「…睡眠薬で意識朦朧としかけてたクセに、真実突いてくる所とか…だな」
「……そうか」
きっとよく分からなかっただろうに、山下は俺の言葉を否定しなかった。
俺は初めて、間宮を怖いと思った。
まさか髪の話をしただけで、親にも弟にも…友達だった奴らにも、誰にも言わなかった真実を暴かれそうになるとは思わなかった。
男の寝顔を長々と観察する趣味はない俺は、踵を返してさっさと仮眠室から出る。
同じように出てきた山下は、何か考え込むように扉を閉めた。
そう言えば、山下は間宮と例の件とやらについて話に来たんだったな。
間宮を寝かせたことで困ってんのか。
「山下、例の件って…」
「神山」
「あ? …何だ」
振り返ればそこには射抜くような山下の目。
風紀委員長たる所以の一端を垣間見た気がする。
「…悪いとは思ってる。だが、生徒会に…今唯一学園を機能させている生徒会長に近付いた君が気になった故の行動だと理解してほしい」
「要領を得ねぇな。ハッキリ言え」
「君のことを少し調べさせてもらった」
飾ることなく述べた山下に、俺は目を細めた。
成る程、だから前置きにあんな言い訳じみたことをタラタラ言ってやがったのか。
「君は中学三年の冬…三月上旬に、暴力事件を起こしているな」
「唯一、学園での噂と一致してる事実だな」
「そのせいで君は、有名な公立高校の推薦を取り消されて、霞桜学園の外部入学試験を受けている」
「よく調べてんじゃねーか」
俺は、ふっと笑って山下を見る。
そこまで調べたなら、きっと分かってんだろ。
山下は俺を真っ直ぐに見つめてきた。
「その公立高校の推薦……君は、生徒会長枠で、決まっていた」
「へぇ。…それで? 何を確認してぇんだ、お前」
「──君は間宮が憧れているという、鷹宮中学の生徒会長だったのか」
その確信を含む声に。
俺は口の端を上げただけだった。
でもそれが、肯定の意だと気付かないような風紀委員長でも、なかった。
生徒会室には仮眠室があるっぽいが、入るためにはカードが必要らしい。
俺たち一般生徒用のカードじゃなくて、生徒会専用とか多分そんなやつ。
間宮の服をまさぐるわけにもいかねぇしな。
睡眠薬飲ませてまさぐるとか、怪しすぎて犯罪臭がする。
さてどうしたものか、と眠る間宮を見て思案していると。
「間宮、例の件について話が…、…神山?」
「よぉ、山下。良いところに」
突然開かれた扉から入ってきたのは、風紀委員長の山下純一だった。
眼鏡の奥で目を瞬かせた山下は、眠っている間宮を見て目を見開いた。
「寝てる…のか? あの間宮が?」
「ぶっ倒れそうだったから、睡眠薬盛った」
「睡眠薬…君は本当に面白いことをしてくれる」
「山下、仮眠室って生徒会専用カードとかないと入れないんだよな?」
「風紀委員長が持ってるカードでも入れるぞ」
「本当か。じゃあ運ぶの手伝えよ」
風紀委員長のカードを見せてきた山下に、間宮の腕を肩に掛けるように促す。
山下は左側を、俺は右側を肩に回した。
間宮は俺より少し身長高いから若干引き摺る形になってるが、こればかりはどうしようもない。
山下が扉の機械にカードを通すと、ピッという音と共に解錠された。
仮眠室に入り、ベッドに間宮を横たえる。
移動させても起きなかった所を見ると、睡眠薬抜きにしても相当疲れてたんだろうな。
俺は間宮の目の下に浮かぶ、うっすらとした隈を指でなぞる。
曾根崎も、親衛対象がこんな状態だったら不良にだろうが頼りたくなるか。
「なんつーか…間宮は怖ぇな」
「君がそんなことを言うとは…。間宮の何が怖いんだ?」
「…一人でやり遂げようとする所とか、役員どもを信じ通しそうな所とか…」
あぁ、確かにな、とリコールを再三促してきた山下は頷く。
あと、と俺は目を伏せた。
「…睡眠薬で意識朦朧としかけてたクセに、真実突いてくる所とか…だな」
「……そうか」
きっとよく分からなかっただろうに、山下は俺の言葉を否定しなかった。
俺は初めて、間宮を怖いと思った。
まさか髪の話をしただけで、親にも弟にも…友達だった奴らにも、誰にも言わなかった真実を暴かれそうになるとは思わなかった。
男の寝顔を長々と観察する趣味はない俺は、踵を返してさっさと仮眠室から出る。
同じように出てきた山下は、何か考え込むように扉を閉めた。
そう言えば、山下は間宮と例の件とやらについて話に来たんだったな。
間宮を寝かせたことで困ってんのか。
「山下、例の件って…」
「神山」
「あ? …何だ」
振り返ればそこには射抜くような山下の目。
風紀委員長たる所以の一端を垣間見た気がする。
「…悪いとは思ってる。だが、生徒会に…今唯一学園を機能させている生徒会長に近付いた君が気になった故の行動だと理解してほしい」
「要領を得ねぇな。ハッキリ言え」
「君のことを少し調べさせてもらった」
飾ることなく述べた山下に、俺は目を細めた。
成る程、だから前置きにあんな言い訳じみたことをタラタラ言ってやがったのか。
「君は中学三年の冬…三月上旬に、暴力事件を起こしているな」
「唯一、学園での噂と一致してる事実だな」
「そのせいで君は、有名な公立高校の推薦を取り消されて、霞桜学園の外部入学試験を受けている」
「よく調べてんじゃねーか」
俺は、ふっと笑って山下を見る。
そこまで調べたなら、きっと分かってんだろ。
山下は俺を真っ直ぐに見つめてきた。
「その公立高校の推薦……君は、生徒会長枠で、決まっていた」
「へぇ。…それで? 何を確認してぇんだ、お前」
「──君は間宮が憧れているという、鷹宮中学の生徒会長だったのか」
その確信を含む声に。
俺は口の端を上げただけだった。
でもそれが、肯定の意だと気付かないような風紀委員長でも、なかった。
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