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第一章

「お前……顔悪いぞ…」


生徒会室に着いた俺は、間宮を見て開口一番そう言った。
生徒会室でまたあの宇宙人集団がはしゃいだのか、床や机にはゴミが散らばり、そんな中で間宮は一人、仕事を捌いていたらしい。
顔を上げないまま、間宮は書類に判子を押す。


「この俺に向かって顔悪いはねぇだろ。言うなら顔色だ」
「いや、顔悪いっつーのもあながち間違ってねぇよ、今のお前…」


顔色も悪いが、顔も悪い。
ヒドい形相と言った方が正しいのか。
日に日に間宮の体調が悪くなってるような気がする。
間宮は、当初の冗談や下ネタすら言わなくなってきた。
やっぱり、生徒会を一人で機能させるのはキツいんだよな…。
風紀委員長の山下も、最近頻りに生徒会室に来てリコールを促してくる。
それでも首を縦に振らない間宮は、まだ役員が戻ってくると信じてるんだろうな。
間宮は実はお人好しなんじゃねぇかって最近気付いてきた。
そんな間宮が写真をネタに俺を脅してくるってのに若干の違和感を抱いてないわけじゃねぇが、それは今置いておく。
間宮に気付かれないように少し考えて、コーヒーを淹れてやろうと給湯室に行った。
お湯を沸かしていると、会長席に座ったままの間宮が口を開いた。


「神山は今まで何してたんだ?」
「あ? あー…会計と一緒に居たな」
「……は?」


カタン、と音がした。
ペンでも落としたのだろうか。


「……そう言えばさっき、尚輝だけ井川と一緒にいなかったな。何してたんだ。つーか、何で一緒に居る状況になった」
「俺が学園彷徨いてたら、チビ二人に絡まれてる奴がいてな。うるせぇから追い返そうとしたら、そのチビ二人は逃げて、逃げ遅れたのが会計だった」


裏庭でスズメと戯れていた云々の話はキレイにすっ飛ばした。
これ以上間宮に弱味握られたら、何させられるか分かんねぇからな。
にしても…いつも以上に間宮の声、低くねーか?
俺が会計と一緒に居たって言ってからだよな。
…あぁ、そのままの流れで会計も連れてこいよ気が利かねぇな、ってことか。
あの状態で会計が素直に仕事手伝うとは思えねぇけど。


「くそっ…尚輝のヤツ、俺を差し置いて神山と一緒に居やがって…」
「あ? 悪ぃ、なんつった?」
「何でもねーよ。つか、尚輝と会話出来たのか」
「あぁ、アイツ結構良い奴だった」


バキッ


「? 何だ今の音」
「…世にも珍しい万年筆が折れた音だ」
「はぁ!? 万年筆ってンな簡単に折れねぇだろ!?」


どんだけ切羽詰まって書類書いてんだ。
半ば呆れながら、沸いたお湯でコーヒーを淹れる。
そしてポケットから小さなビンを取り出し、中のモノをコーヒーに入れてかき混ぜ完成。
それを間宮に持って行ってやる。
間宮は手を止めて礼を口にし、コーヒーを飲んだ。


「…尚輝とどんな話したんだ」
「他愛もねぇ話だ」
「他愛もないんだったら言えるだろ」


妙に突っ掛かるな、今日の間宮は。
会計との会話って言えば、動物の話とかだから言いたくねぇんだが…あ、他にもあったな。


「何で髪を赤に染めてんだって訊かれた」
「は? 髪?」
「だから他愛もねぇっつったろうが」


俺は床に散らばるゴミやら何やらを片付けていく。
やっぱ、生徒会室は綺麗じゃないと気分が悪い。
鷹宮中学では校内の美化を徹底したもんだ。
間宮の命令なんか関係なく自主的に掃除を進める。
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