第二章

わいわいと、掲示板の前に生徒が集まっている。
その掲示板には『新入生テスト』という試験の順位が大々的に貼られていた。
綾部はその喧騒に紛れながら羅列されている名前を眺めている。


「俺、真ん中よりちょい上だった。綾部君は?」
「真ん中くらいかな」
「ま、上がるも下がるもこれからだよな」


綾部はクラスメイトの言葉に返すが、その目は冷めていた。
もう、優秀な成績を取る必要もない。
誰に褒められたいとも、もう思わない。
目立ちたくないから手を抜いたが、ちょうど良い按配だったらしい。


「に、しても…テスト満点はすげぇよなぁ」


そう呟いて、クラスメイトは上位が掲載されている方に苦笑しながら視線を向けた。
そこには少し茶色がかった髪の生徒が、多くの生徒から囲まれ賞賛されていた。


「流石松村君だね!」
「あのさ、俺数学の最後の問題がどうしても理解出来なくて、教えてくれたら嬉しい」
「あ、僕も教えてほしいな!」


アイツは、誰だったか。
興味はないが。


「なんつーか、皆必死だな」
「なにが?」
「ほら、松村悠里。マーケティング大手の長男。今のうちに取り入っておこうってことだろ」
「へぇ」


勝手に喋って来るクラスメイトに何となく返事をする。
名前とか家のこととか、バレてると大変だな。
綾部も大手不動産会社の長男である。
本来ならば綾部にも、取り入るメリットはあるのだが。
どうせ継ぐのは、本当の子どもである弟の静だろうと、綾部は確信していた。
静佳も静佳で優秀なようだし。


「おい、またテメェか。邪魔だって何回言えば理解出来るんだろうな?」
「お前も何回言っても分かんねぇ奴だな。お前が、避ければ良い話だろ?」
「ぁあ?」
「文句あんのか」


松村悠里の所に、色を抜いた髪の目付きが鋭い生徒が近付いた。
あの二人、確か入学式の時もああいうやり取りしてなかったか。
邪魔云々なら、どちらも邪魔だ。
ああいう奴らは黙らせたい、が、学園では大人しくすると決めている。
退学や自宅謹慎なんてものになったら、あの、歪んだ家に戻らされる。
それだけは絶対に嫌だ。
綾部は野次馬をしているクラスメイトを置いて一人、教室に戻ろうとする。
その時すれ違った御子柴と、一瞬だけ、目が合った気がした。
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