第二章

(風紀委員長side)

クソ風紀、といういつもの蔑称を叫んだアイツは走って自室に戻って行った。
俺はそれを見送って、一番左の俺の部屋の鍵を開ける。
柳原学園の寮や食堂、店ではカードを使用する。
一般生徒はホワイト、風紀委員はグリーン。
副委員長、生徒会副会長から庶務はレッド。
そして俺とバ会長はブラック。
色によって出来ることが異なる。
俺とバ会長のブラックカードは、理事長室以外の学園内の鍵を全て開くことが出来る。
何かあった時用の権利だ。
そんな大層なカードを使って自室に入る。
ガチャンとオートロックが閉まって、俺はズルズルとしゃがみ込んだ。


「……何してんだ、俺」


生徒会室から出て行く時の、バ会長の表情。
和樹には見てないっつったが、バッチリ見えた。
そして保健室では、いきなり志春に絡まれてるバ会長。
見たことないくらいの赤面に慌てたような言葉に行動。
最後にはさっきの、アレ。
裾掴まれて振り返れば、じっと見てくる目。
それがどんどん下がっていって、それに比例して困ったように赤くなっていく顔。
それを見たら、衝動的に頬に触れていた。
何とか誤魔化したけど、まだ手に頬の感触が残ってる。


「あぁ、クソッ…」


中等部での初対面の時から反りが合わない松村悠里。
男子生徒に黄色い声を上げられ、それを当たり前のように享受し。
いつも自信満々で我が道を行く。
しかし、それだけでないことを俺は知っている。
中等部の頃、前生徒会長九条咲良の指令で動いていた時からアイツのことは見ていた。
今や伝説の生徒会長と呼ばれている、あの九条咲良から気に掛けられている松村悠里に疑問を持っていたのは間違いない。
ただその中で、どうにも言動が一致しないことがあるのには気付いていた。
それでも俺にとってはアイツは認めたくない人間の一人で、イケ好かねぇ野郎だ。
あぁ、でも、ああやって、申し訳なさそうな、赤く染まっていく顔を見ると。


「……余計なこと、か」


案外笑顔が可愛いと宣った和樹に向かって、松村悠里には余計なことを言うな、と。
会計達が言っていた意味が今、分かった。
これはきっと、自覚してはいけない類の感情で。
触れたくなった衝動にも理由を付けてはいけない。
それがたとえ、過去からの積み重ねの衝動であっても。


「……はぁ~…」


間違っても、可愛いなんて。
思いたくないのに、何度もあの表情が脳裏に浮かぶ。


「可愛いとか言いやがった馬鹿、どこのどいつだ……和樹か」


とりあえず明日、和樹を殴っておこう。
そんな八つ当たり極まりないことを思いながら、その夜は更けていった。
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