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第二章

外に街灯はあるけどやっぱり暗い。
もう二十時過ぎてるもんな、当然か。
真っ暗じゃないからトラウマは刺激されないけど、少し怖い。
まぁ、一人じゃないからまだマシだけどね。


「…おい、バ会長」
「何だよクソ風紀」


一人じゃないって言うか、隣にはまさかの御子柴。
驚いたことに、現在犬猿の仲である生徒会長と風紀委員長が共に帰寮中です。
流れ的に仕方ないか。
校舎から寮までは三百メートルくらい。
競い合って走って帰るなんて流石にしない俺たち。
だって疲れてんだもん。
百メートルくらいで、御子柴が沈黙を破った。


「お前、何で志春にあんなことされてたんだよ」


あんなこと。
壁ドン+まさぐられですね。
御子柴の質問には意外にもからかいの色はなく、もしかしたら風紀として訊いているのかもしれない。
なら俺も、黙れとか言わずに答えるべきなんだろうな。


「知らねぇよ。志春の趣味だろ。初めて会った時から尻触られたり腰触られたりしてんだから。誰彼構わず襲いたがるんだろ、志春は」


よしこれで、たいしたことありませんけどアピール出来ただろ。
皆されてるだろうから俺は問題視してません、みたいな。
でも御子柴の表情を見て、俺は目を瞬かせた。
何その渋面。


「……言っとくが、志春に襲われたって生徒はいねぇぞ」
「……は?」
「まぁ、惚れてるヤツは志春に襲われても風紀には報告しないんだろうが、少なくとも嫌がってんのに襲われたってのは聞いたことねぇ」
「…ちょっと待て。お前も触られたりしたことあんだろ?」
「あるわけねぇだろ、気色悪ぃ」
「嘘つくな。笑わないから正直に言え」
「しつけーんだよ。ないっつってんだろバ会長」


イラついてる御子柴を見て愕然とする。
ってことは何か?


「俺にだけ、手ェ出そうとしてんのか」
「……現状ではそうだな」
「な、何だそれ!? 聞いてねぇぞ、ンなこと!」
「………」


アイツ、意味分かんねぇよ。
俺より可愛い男いっぱいいるじゃん。
小さくてポワポワ笑って、悠里様~、松村様~、っていうような子もいるのに。
何でよりにもよって俺なんかに触ってんの。
志春の意図が理解出来ない。
御子柴は何か黙ったし。
そう言えば、御子柴も変じゃないか?
いつもなら、情けねぇな、風紀入って気合い入れ直した方が良いんじゃねーのバ会長、って感じで盛大に馬鹿にしてくると思うんだけど。
内心首を傾げていると、寮の明かりが見えてきた。
や、やっと帰ってきた……。
生徒会役員と風紀委員長、副委員長は最上階。
因みに残りの風紀委員はそれぞれの階に平等に割り振られてる。
俺と御子柴はエレベーターに乗る。
…日本人って、エレベーター苦手だよな。
沈黙が気まずい。
お互い何故か無言のまま最上階に着いた。
俺は一番右の部屋で、御子柴は一番左の部屋だ。
つまり俺と御子柴はここでお別れってこと。
ん? あれ、何か大事なこと忘れてる気がする…って、あ!!


「じゃあなバ会長」
「──ちょっと待て…っ!」


くいっ、とそのまま去りそうだった御子柴の裾を掴む。
御子柴は少し驚いたような顔をして、こちらを振り返った。


「何だよ」
「あ…」


反射的に呼び止めてしまったけど、どうすれば良いんだ。
俺は、御子柴に礼を言わなきゃいけない。
偶然だったけど、志春から助けてもらったのには変わりないんだから。
風紀委員長権限まで使おうとしてくれたし。
だからありがとな、って一言。
一言だけ、言えば良いのに。
俺様なことが枷になる。
シン…と再び沈黙が降り注ぐ。
何か、何か言わないと。
っていうか裾掴むとか、彼氏と離れたくない彼女みたいなことしてるんじゃないの、俺。
もうこの時点で俺様じゃなくない?
御子柴とか志春だったら呼び止める時襟掴むぞ、襟。
なんか…恥ずかしくなってきたんだけど…。
その時、スッと御子柴の手が伸びてきて俺の頬に触れた。
俺はびっくりして顔を上げると、見たことないくらい真剣な目がそこにはあって。
でも次の瞬間には、御子柴の顔にニヤリとした笑みが浮かんだ。


「今日のことは誰にも言わねぇから心配すんなよ。バ、会、長?」
「~ッ勝手にしやがれクソ風紀!!」


やっぱ御子柴は御子柴だった。
最後の最後にこれでもかってぐらい馬鹿にした笑み浮かべやがって!
俺はダッシュで自室に戻った。
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