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第二章

いや、これは違うんだって。
俺と志春はそんなんじゃなくて、ほら、夏希に企画書提出しに行っただろ?
そしたら保健室に来いって志春の伝言を受けて、はるばる来たら用はないくせに呼んだとかぬかしやがってさ。
んで何のつもりか知らないけど、今お前が見てる状況なわけですよアンダースタン?
…なんて、冷静に言えたら良かったんだけど。
俺はまさぐられるわ見られるわで、とんでも無いくらいテンパっちゃってるわけで。


「や、あ、違…っ」


意味のある言葉を発せない情けなさ。
ヤバいヤバいヤバい。
落ち着かないと素が出る。
お願いだから助けてくれ御子柴!! とか、俺様生徒会長にあるまじきSOSを送ってしまいそうだ。


「何してるって、見たまんまだろうが。なァ、松村…?」
「──しは…っ」


待ち人来たのに、何でふてぶてしくも続行してんだコイツ!
ってゆーか、耳甘噛みするの止めてくれませんかね!?
その時、ぐっ、と志春の肩が引っ張られて俺との距離が少し出来る。
落ち着いて見ると、いつの間にか御子柴が志春の背後にいた。
俺と御子柴の目がバッチリ合う。


「バ会長、一度だけ訊く。これは同意の上か?」
「ンなわけねぇだろ!?」
「だろうな。──養護教諭柿崎志春。これ以上やるんなら、風紀委員長の権限でテメェを処分する。それが嫌なら今すぐ離れろ」
「…ハァ。やっぱまだ冗談も分からねェガキだな、お前らは」


そう呆れたような溜め息を吐いて俺から離れる志春。
ホッとしたと同時に、怒りがフツフツと込み上げる。
冗談、だと?
冗談で尻やら鎖骨やら首やら背中やら触られたらたまったもんじゃないわ!!
しかもよりにもよって御子柴に見、ら…れ……。
──み、見られたんだった…っ!
俺様生徒会長が保健医に襲われてるとか、俺を追い落とす恰好のネタじゃん!
そしたら生徒会の奴らにはナメられ見捨てられ、一般生徒には後ろ指を差され。
生徒会がリコールされて、俺は一般生徒に逆戻り。
目標も達成出来ず、俺は後継者から外されて弟に火の粉が掛かって…。
どっ、どうすれば良いんだ。
どうすれば……。


「──バ、会、長ッ!!」
「い~…っ! なっ…にしやがんだこのクソ風紀!!」


がぁんっ、と鈍い打撃音と同時に来た額の痛み。
頭突きなんて初めてされた。
目の前には御子柴のドアップ。
いつ見ても整った顔しやがって。
御子柴は眉根を寄せて不機嫌そうな表情をする。
やっぱ恐いですハイ。


「テメェがボケッとしてっからだろーが。おら、行くぞ」
「ど、どこに」
「寮だ、寮。テメェも帰んだろ」
「は? あ、いや、まぁ、帰るけど…」
「俺と志春の話は終わった。さっさと歩けバ会長」


え、いつの間に?
あぁ、俺がグルグル考えてた時か。
昼間風紀がボコッた馬鹿がどうのこうのって…御子柴は風紀の話でここに来たのか。
頭の中を整理しながら出て行く御子柴について行くと、志春の声が背中に投げかけられる。


「いつでも来いよ? 松村」
「血ィ吐いても来ねぇよ!!」


バァンッ、と荒く閉められた扉を見つめて志春は肩を震わせた。


「もうちょい遅く来て欲しかったぜ、御子柴」


あとちょっとで俺様生徒会長の仮面が剥がれそうだったのに。
どんなんが出てくるのか見たいもんだな、と楽しそうに笑った。
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