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第二章

「志春いる…っうわ!?」


保健室に着いた俺は、少し躊躇いながらノックして扉を開いた。
薬品の匂いがする中、ぱっと見誰も居なくて、俺は一歩保健室に入った。
その瞬間腕を引っ張られて、壁に俺の背中が当たる。
目の前にあるさっきまで会ってた化学教師に似てる顔を見て、つい顔が引きつる。


「久し振りだなァ、松村」
「……そうだな」


夏希と同じく白衣姿にメガネはなし。
前髪を上げて胸元も若干開けてるこの男。
養護教諭柿崎志春、その人だ。
志春は口元は笑ってるけど目が笑ってない。
背後は壁だし、逃げ場はないぞ。


「おかしいなァ、俺は入学式の日に帰りに寄れって夏希に伝言を頼んだんだが?」
「その伝言は夏希からさっき聞いたんだよ」
「俺からの伝言が無いかぐらい、毎日夏希に訊けよ」
「理不尽過ぎるだろ!」


突然ですが、柳原学園には三大俺様がいます。
まずこの俺、生徒会長松村悠里。
だがまぁ所詮演技、そこまでヒドいことは出来ません。
次に風紀委員長、御子柴竜二。
でも御子柴は俺様のベクトルが生徒会──特に俺や、風紀──特に綾部に向かっているので、一般人にはあまり関係ありません。
そして最大の俺様がこの男。
柳原学園養護教諭、柿崎志春。
コイツは本物の俺様。
こんな理不尽なこととかも誰彼構わず普通に言うし、人使いも荒い。
養護教諭としての腕は確かでそれに対しては誠実だから悪い人ではないんだけど、そんなヤツに壁ドンされてる俺は内心ビビりまくりなわけです。


「理不尽だァ? 二日待たされたコッチの身にもなれや」
「だから、不可抗力なんだっつってん…ぅわっ!? な、何してんだ、お前!」
「何って、首筋舐めただけだろうが」


ニヤリと口の端を上げる志春。
こん…っの、エロ教諭が!
だから苦手なんだよ、この人!
尻触ってくるわ、やらしい手付きで頬撫でてくるわ…挙げ句の果てに、首筋舐めた!?
この学園では俺がこういうことする側として見られてるから、されるのには慣れてないんだって!
素の俺が出そうなレベルでテンパっていると、志春の手が俺の尻に触れる。


「ッだから、止めろって…っ」
「指図される謂われはねェな」
「じゃあ、さっさと用件言えよ…っ」
「特にない」
「……は?」


触られてるのも忘れて、俺は志春の顔を見る。
志春は手を止めて、大真面目な顔で繰り返した。


「特にないっつってんだよ」
「……ッじゃねぇだろーが! じゃあ何か? 俺は何も悪くないのに、今こんな状態なのか?」
「結果的にはな」
「ざっけんなッ!! さっさと離せ、このエロ保健医が!! 俺は帰…、…っ」
「慣れてねェから、お前反応良いよな」


鎖骨に濡れた感覚。
コイツ、鎖骨舐めやがった…っ!
志春の言う通り一々反応してしまう自分に嫌気がさす。
っていうか、俺がこんな声出すとか有り得ないから!
手も押さえられてるし、抵抗も出来ない。
こんなん誰かに見られたら、終わる。


「お、前…っこんなことするために、こんな遅くまで残ってたのかよ…んっ…こ、腰撫でんじゃねーよ!」
「いや? あの生意気なガキに用があってな。遅くなるって連絡あったから、この俺が直々に待ってやってんだよ」
「ガキ、って…もう生徒は殆ど帰って……」


そこで俺は言葉を切った。
もうすぐ二十時。
こんな時間まで校舎に残って良いのは、生徒会と風紀と、生徒会に届け出をした生徒のみ。
でも今日生徒会にはそんな届け出はなかったし、生徒会の奴らは志春について何も言ってなかった。
と、言うことは?
答えに至った瞬間。
ノックも無しに、扉が開いた。
そうだよな、ノックもなく無礼に入ってくるヤツって言ったら、お前しかいないよな。


「おい志春。昼休み風紀がボコった馬鹿どうな、…った…。……お前ら…何してんだよ。志春と…バ会長…」


壁に押さえつけられ、志春に身体をまさぐられて百パー赤面してる俺を見た入室者──御子柴竜二が珍しく動揺して訊いてきた。

お、終わった──……。
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