第二章
「おい夏希、いるか?」
「夏希大先生様と呼べ、松村」
「松村生徒会長様と呼べ、夏希」
「ははっ。あいっかわらずの俺様で何よりだよ」
化学教官室に入って直ぐの所で、くるりと椅子を回し、此方を見て笑う夏希。
俺はいつもかなり失礼なこと言うんだけど、一回も怒られたことはない。
メガネずれてるし白衣はヨレヨレしてるけど、そういう所が慕われる一因なんだろうなと思う。
それなりにイケメンってこともあるんだろうけど。
「どうした松村。化学の質問か?」
「いや、新歓の企画書提出しに来た」
「マジで? 明日までだったろ?」
「風紀と一緒にやったから、早く終わった」
「風紀って…御子柴と綾部か? おいおい、雨降るんじゃねーのか」
「うっせーよ。ほら、企画書。学園に出しといてくれ」
夏希は驚いたみたいな言葉を言いながらも、ニヤニヤしてる。
何が楽しいんだか。
俺が鞄から出して手渡した企画書にザッと目を通す。
何か緊張するな…。
読み終わったのか、夏希は頷いた。
「鬼ごっこなぁ…」
「…何かマズいのか?」
ふぅむ…、と顎に手を当てる夏希に不安になる。
確かに立食パーティーとかとは違うけど、新入生を楽しませようってとこは一緒なんだけど…。
これで駄目だったら、生徒会にも風紀にも面目が立たない。
そう尋ねた俺を見て夏希は目を瞬かせ、笑みを浮かべる。
「いや、マズくない。良いんじゃないか? これなら許可も貰えるだろ。そんな不安そうな顔すんな、松村」
「…不安そうな顔なんてしてな…」
「はいはい。──お前はまだガキなんだから、そんな気ぃ張るなよ」
ポンポン、と頭を撫でられる。
頭撫でられるとか、すごく久し振り。
父親は母さんが死んでからはしなくなったし、俺は兄貴だし、ここでは俺様生徒会長だし。
夏希が凄く大人に感じて、何か恥ずかしい。
俺はパンッ、と夏希の手を払う。
「……っ触んな」
「…うわー、すっげぇ新鮮。新発見」
「何が」
「いやいや、別に。あ、鬼ごっこの件な、学園的にはOKだと思うけど、俺の兄貴は嫌がるだろうと思ってさ」
「…あぁ、志春か」
「そうそう。走ったら結構怪我するヤツ出てくるだろ」
生徒会お願い券が付いてりゃなー、とけらけら笑う夏希。
志春っていうのは、柳原学園養護教諭、柿崎志春、二十九歳。
この夏希の実の兄で、何て言うか…俺は苦手。
悪い人ではないけどさ…。
「あ、帰りに保健室寄ってけよ。兄貴がお前に話があるんだと」
「はぁ? チッ、面倒くせぇな…。つか、俺が今日来なかったらどうするつもりだったんだ」
「心配すんなって。この伝言、一昨日のだから」
「既に二日経ってんじゃねぇか!!」
入学式の日とか、俺普通に帰ったわ!!
心配云々じゃない。
早く行かないと、流石にマズい。
生徒会関係とかだったら困る。
「ほんっとテキトーだな、お前は」
「お褒めの言葉、ありがとう」
「褒めてねぇよ」
「お、もう行くのか?」
「志春、もう帰るかもしんねーからな。急がねぇと…」
「ふぅん。ま、気を付けてな、松村」
「っだから触んなって!」
また頭撫でる!
恥ずかしくて居たたまれないんだって。
俺はまた手を払いのけて、化学教官室から出て行く。
「…アイツ、可愛いわ」
ぼそりと呟かれた夏希の声は、俺の耳には入らなかった。
「夏希大先生様と呼べ、松村」
「松村生徒会長様と呼べ、夏希」
「ははっ。あいっかわらずの俺様で何よりだよ」
化学教官室に入って直ぐの所で、くるりと椅子を回し、此方を見て笑う夏希。
俺はいつもかなり失礼なこと言うんだけど、一回も怒られたことはない。
メガネずれてるし白衣はヨレヨレしてるけど、そういう所が慕われる一因なんだろうなと思う。
それなりにイケメンってこともあるんだろうけど。
「どうした松村。化学の質問か?」
「いや、新歓の企画書提出しに来た」
「マジで? 明日までだったろ?」
「風紀と一緒にやったから、早く終わった」
「風紀って…御子柴と綾部か? おいおい、雨降るんじゃねーのか」
「うっせーよ。ほら、企画書。学園に出しといてくれ」
夏希は驚いたみたいな言葉を言いながらも、ニヤニヤしてる。
何が楽しいんだか。
俺が鞄から出して手渡した企画書にザッと目を通す。
何か緊張するな…。
読み終わったのか、夏希は頷いた。
「鬼ごっこなぁ…」
「…何かマズいのか?」
ふぅむ…、と顎に手を当てる夏希に不安になる。
確かに立食パーティーとかとは違うけど、新入生を楽しませようってとこは一緒なんだけど…。
これで駄目だったら、生徒会にも風紀にも面目が立たない。
そう尋ねた俺を見て夏希は目を瞬かせ、笑みを浮かべる。
「いや、マズくない。良いんじゃないか? これなら許可も貰えるだろ。そんな不安そうな顔すんな、松村」
「…不安そうな顔なんてしてな…」
「はいはい。──お前はまだガキなんだから、そんな気ぃ張るなよ」
ポンポン、と頭を撫でられる。
頭撫でられるとか、すごく久し振り。
父親は母さんが死んでからはしなくなったし、俺は兄貴だし、ここでは俺様生徒会長だし。
夏希が凄く大人に感じて、何か恥ずかしい。
俺はパンッ、と夏希の手を払う。
「……っ触んな」
「…うわー、すっげぇ新鮮。新発見」
「何が」
「いやいや、別に。あ、鬼ごっこの件な、学園的にはOKだと思うけど、俺の兄貴は嫌がるだろうと思ってさ」
「…あぁ、志春か」
「そうそう。走ったら結構怪我するヤツ出てくるだろ」
生徒会お願い券が付いてりゃなー、とけらけら笑う夏希。
志春っていうのは、柳原学園養護教諭、柿崎志春、二十九歳。
この夏希の実の兄で、何て言うか…俺は苦手。
悪い人ではないけどさ…。
「あ、帰りに保健室寄ってけよ。兄貴がお前に話があるんだと」
「はぁ? チッ、面倒くせぇな…。つか、俺が今日来なかったらどうするつもりだったんだ」
「心配すんなって。この伝言、一昨日のだから」
「既に二日経ってんじゃねぇか!!」
入学式の日とか、俺普通に帰ったわ!!
心配云々じゃない。
早く行かないと、流石にマズい。
生徒会関係とかだったら困る。
「ほんっとテキトーだな、お前は」
「お褒めの言葉、ありがとう」
「褒めてねぇよ」
「お、もう行くのか?」
「志春、もう帰るかもしんねーからな。急がねぇと…」
「ふぅん。ま、気を付けてな、松村」
「っだから触んなって!」
また頭撫でる!
恥ずかしくて居たたまれないんだって。
俺はまた手を払いのけて、化学教官室から出て行く。
「…アイツ、可愛いわ」
ぼそりと呟かれた夏希の声は、俺の耳には入らなかった。