第二章

(会計side)

「…え、あれ? 今の何?」
「…バ会長の上から目線の労いの言葉だろ」
「いやっ、ユーリ会長が俺ら労うのにもびっくりしたけど! あの顔! 表情! 竜二も見たでしょ!?」
「見てねぇ」
「バッチリ見てたじゃん!」
「見てねぇっつってんだろーが。潰すぞ」
「ナニを?! ってか、現実逃避するためにヒトの大事なとこ狙うなよ!」
「も~、片付け手伝わないんなら帰ってよ~」


呑気に居座る二人の風紀に唇を尖らせて僕は言う。
悠ちゃんが企画書に集中出来るように、僕らはいつもの倍雑務をやったんだから、早く帰りたいんだもん。
でも、騒ぎたくなる気持ちは分かるかな~。


「オラ、潰されたくなかったらさっさと終わらせろや、バカが」
「わー、手伝う手伝う! ……あのさ、会計クンたちも見た、よね? さっきのユーリ会長の…」
「え~、何言ってるのか分かんな~い」


えへへ~、と僕は笑いながらイチゴ飴を口に放る。
僕甘いのだ~いすき。
幸せな気分になるでしょ?


「いやー…でもまさか、ユーリ会長に対してこんな風に感じるとは思わなかったなー」
「こんな風って~?」
「──案外、笑顔可愛いなー、って」


カズっちは、そう言った。
その瞬間リュウっちがカズっちの頭を殴っちゃって、マジで殴るの止めてくんね? 俺バカになっちゃうから、なんて騒いでる。
そうだよね、思うよね~。
生徒会長松村悠里は俺様。
僕らは今もそう思ってるし、僕らがいつも見てる『俺様生徒会長』は様になってるから全くの嘘ってわけではないんだと思う。
でもね、時々。
本当に時々、笑うんだ。
すっごく良い笑顔なの。
その表情にも勿論嘘はなくて。
抱かせてくれーってよく言われるこの僕がね。
可愛いなんて、思うくらいに。
初めてその笑顔見た時から、何度もあの笑顔見たいな、もっと笑わないかな。
──僕が、笑顔にさせたいな、なんて思っちゃったり。
だから、困るの。
余計なこと言って、今より笑わなくなっちゃうのはさ。
でも僕が変に言っちゃったら、生徒会の皆も怪しんじゃうかも。
イチゴ飴を舌の上で転がしながら考えてると、俊ちゃんが資料を棚にしまいながら口を開いた。


「そこの騒がしい風紀のお二人、変なこと言わないで下さいよ」
「あ゛? 何言ってんだ、庶務」
「え? 変なこと?」
「ふふっ。そうですね」
「……変なことと言うか、余計なこと、だな」
「余計なことって何?」
「テメェら要領得ねーんだよ。はっきり言えっつの」


カズっちとリュウっちは、はてなマークを頭の上に浮かべてる。
あぁ、なぁんだ。
やっぱり皆もそうなんだね~。
僕らはただの横暴な俺様について行く趣味はない。
生徒会に選ばれても、そんな人の助けはしない。
だけどだけど、皆悠ちゃんの助けにはなりたいって思ってる。
つまりこれって、こーゆー意味でしょ?


「──悠ちゃんには秘密にしといて、ってことだよ」


僕らは皆、悠ちゃんに惚れ込んで生徒会をやってるの。
余計な真似をされて、邪魔はされなくないんだよね~。
僕はニコリと笑って、目を見開いてる二人を見た。
まだ分からないのかな、でも分からなくっていーよ。
僕や智ちゃん、桃ちゃんや俊ちゃんが今笑ってる理由もね。
僕の舐めてたイチゴ飴は、密やかな甘い幸せを残して消えていった。
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