第二章

☆☆

「で…、出来たぁー」


企画書作りを始めて二日目の放課後。
生徒会室で疲れ切った声が響いた。


「お疲れ様でした、悠里、委員長、副委員長」
「副会長クンも、ありがとねー。紅茶美味しかったよー」
「うわ、ほんとに二日で終わらせたんですか。本来の期限明日までなのに」
「……早かったな」
「悠ちゃんとリュウっちが、競い合うように作ってたからね~」


ぞろぞろと、ソファーに座ってその前のテーブルで作業していた俺たちの周りに、他の生徒会メンバーが集まってきた。
企画書にはビッシリと文字が書き連ねてある。
新歓企画書がようやく完成した。
生徒会長の両隣に風紀二人が座ってるっていう異様な光景だけど。


「企画説明に、ルールに、賞品に、風紀の配置…よし、完璧だな」


俺は立ち上がって生徒会長机の鍵付き引き出しを開き、そこから生徒会長のみが使える判子を取り出した。
そして企画書にポンと捺す。
これで、柳原学園生徒会企画書として学園に提出出来る。
綾部はぐだ~、とソファーにもたれかかった。


「いやー、でも生徒会って大変だねー。新歓でこれなんだから、体育祭とか文化祭とか…考えただけで怖いわー」
「そん時は風紀も忙しくなるから心配すんな、和樹」
「ちょっ、怖いこと言わないでよ、竜二。心配度アップじゃん」
「アホか。行事は馬鹿が増えるからな。暴れられるチャンスだろーが」
「あっ、そっかー。うはー、風紀副委員長で良かったー」
「…そういう会話は風紀室でしろ不良共」


何で生徒会室でするんだよ。
つーか、警備を喧嘩のネタにすんなよ。
ごめんごめん、と綾部は謝る。


「ま、でも楽しかったよ。竜二と張り合えるの、ユーリ会長ぐらいしかいないしさぁ」
「何寝ぼけたこと言ってやがんだ、このバカが。どう見ても俺のが勝ってんだろーが」
「はぁ? 生徒会長様がクソ風紀なんぞに負けるわけねぇだろ」
「いだだだだ! りゅ、竜二、髪抜ける髪抜ける!」
「カズっち頭悪~い。張り合うとか勝ち負けとかは、二人の前じゃ禁句でしょ~」


ガンを飛ばし合う俺たちの傍で、啓介がからからと面白そうに笑っている。
髪を引っ張られた綾部は、ハゲたらどーすんのさ! と御子柴に抗議するも流された。
抗議するだけ無駄だって、綾部…。
もしハゲたら松村グループの発毛促進薬を提供してやるから。


「……悠里、夏希に企画書提出しなくて良いのか」
「あぁ、そうだったな」


桃矢に言われて俺は時計を見る。
十九時、まだいるよな、多分。
夏希とは、生徒会担当の教師、柿崎夏希、二十八歳。
化学担当のためいつも白衣姿で、若いくせにだらけきった男だ。
まぁでも生徒には慕われてて、夏希なんて呼び捨てても、夏希大先生様と呼べ、と笑いながら返してくれる。
柳原学園高等学校では生徒会が主だけど、一応企画書に学園許可印を貰わないと駄目だから夏希に提出しなきゃってわけだ。


「じゃあ今から化学教官室行ってくる。お前らはもう帰って良いぞ」
「ではお言葉に甘えて、片付けをしてから先に帰寮させてもらいますね」
「俺もやんなきゃですよね…はぁ」
「悠ちゃん、生徒会室の鍵は掛けとこうか~?」
「あぁ、俺は提出したら直で帰寮するから、掛けとけ」
「……一人で、大丈夫か」
「ガキじゃねぇんだから大丈夫に決まってんだろーが」


指示や言葉を交わして、俺は鞄に入れた企画書を持って生徒会室の扉に手を掛ける。
すると後ろから声がかけられた。


「俺らも片付け手伝ってから帰るわ。お疲れ様、ユーリ会長。ほら、竜二も挨拶!」
「あ゛? バ会長に挨拶する義理はねぇぞ」
「もぉ、この子ったら。ごめんなさいねー、ウチの息子が」
「そんなに殴られたかったのか。そう言えよ、水臭ぇな」
「じょ、冗談じゃーん。やっだなぁ、竜二ったら俺様なくせに硬派なんだからー」


いつ見ても仲良いよな、この二人。
漫才見てるみたいで、笑えてくる。
御子柴は結構本気で綾部を殴ってるっぽいけどさ。
綾部はチャラ男なんだろうけど、下半身ゆるっゆるって噂されてるレベルほど誰彼構わず相手するつもりはないみたいだし。
御子柴も警備関係を決める時、やっぱ風紀委員長なんだなぁって頼りがいあるヤツだと思ったし。
俺は松村グループの社長になる立場だけど、何やかんや言いながら支えてくれる人たちがいたら良いな。
コイツらみたいにさ。


「じゃあな。──お疲れ」


ありがとう、なんて言えないけど、これぐらいの言葉だったら『俺様生徒会長』が言ってもおかしくないよな。
俺は振り返らずに生徒会室から出て行った。
御子柴と綾部が固まっているのにも気付かずに。
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