第一章


俺の実家、松村グループは手広く事業をやっているが、主な事業は広告代理。
松村グループ社長、祐一と、一般人の由美との間に俺が生まれたのが十六年前。
その次の年には弟が生まれた。
父さんはやはり忙しい人だったが、母さんはそこを上手くフォローしていて、俺たち四人は仲の良い家族だったと思う。
理想の家族だと言っても過言ではないくらいに。

でも俺が小六の八月。
母さんが交通事故に巻き込まれて亡くなった。
勿論俺や弟はショックだったし、泣きもした。
だがそれ以上に衝撃を受けたのが、父さんだった。
最愛の妻が亡くなったというのは、子どもの俺たちが思う以上に悲痛なものだったらしい。
それから父親は変わってしまった。
俺たちを『松村グループの後継者』として育て始めたのだ。
何から何まで叩き込まれた。
甘さが残っていた俺と弟は最初かなり失敗をして、父親に命じられた家政婦から、反省するために暗い部屋に閉じ込められたりした。
そこでは反省よりも、俺は何か泣けてきてしまって。
母さんのこととか、昔のこととか、これからのこととかが次々と頭の中に浮かんできて。
そのせいで今も暗い所が苦手で、怖い。
そのことは弟にしかバレてない。

とにかく俺は、これ以上弟に火の粉が掛からないように努力しまくって、外に出ても恥ずかしくない程度になった。
でも、性格だけはどうにもならなかった。
どちらかと言えば一般人だった母さんの気質を受け継いでいた俺は、将来社長として皆を率いるような性格ではなかった。
そこで父親は、中高一貫全寮制の男子校、柳原学園に勝手に願書を出した。
曰わく、お偉い方々の御子息が多く通うこの学園で率いる力を身に付けろ、と。
提示された最終的な目標は、高等学校生徒会長になること。

柳原学園の中学は教師が全て導いてくれるが、高校では生徒会が全てを任されるらしい。
だからこその、この目標。
父親に従わざるを得なかった俺は困惑した。
すると当時小五だった弟は言った。
『俺様会長とか良いんじゃないの』と。
何だそれはと尋ねると、弟は嬉々として語ってくれた。
あんなにテンションの高い弟は久し振りで、よく分からなかったが俺は兄として安心しながら聞いていると、成る程、確かに『俺様』を演じていれば、率いる力──演技力も身に付きそうだと思った。
それから俺は柳原学園中等部に入学してから『俺様』を演じ、それなりに良かったらしい容姿のおかげで注目もされ、高一の冬の生徒会選挙で生徒会長に選ばれましたとさ。
めでたしめでたし。

──という風に終えることが出来れば良かったのだが。
俺の目標は果たされたわけだが、当然ながら、じゃあ生徒会長辞めます、実は俺こんな性格なんです騙しててごめんなさい、なんて言うことは許されない。
今思えば、父親はそれを含めてあんな目標を提示したのだろう。
こんな事情で、俺は『俺様生徒会長』として柳原学園のトップに君臨しているのだった──……。

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