第一章
柳原学園について俺から少し説明させてもらおう。
柳原学園は中高一貫全寮制の男子校で、家が金持ちな奴らが通うお坊ちゃま学校だ。
思春期を男に囲まれて過ごすもんだがら、必然的に恋愛のベクトルが同性へと向かう。
そしてそんな生徒たちに人気のあり、且つ優秀である者が生徒会役員に選ばれるわけだ。
だから現在の生徒会五名も皆華やかな雰囲気を持っている。
だがその実、生徒会っつーのは面倒くさい。
授業免除や諸々の優先権が与えられるが、それ以上に仕事を任される。
経営者何サボってんだっていうレベルで。
現在そんな面倒くさい役職のトップに就いているのが生徒会長二年、松村悠里。
松村悠里と言えば、と生徒たちに問うと、頭良いだのイケメンだのとの答えが返ってくるだろうが、一番多いのが『俺様』であるという答えだろう。
しかもその生徒たちは不快そうでも迷惑そうでもなく、微かに頬を染めて答えるのだ。
まるで恋する乙女のように。
そんなこんなでまとめると、松村悠里は超絶完璧俺様生徒会長というわけになる──のだが。
俺は知っている。
奴が実は『俺様』でないことを。
昨日の入学式。
松村悠里が述べた祝辞が予想以上にまともで、他の生徒会役員や生徒会長と仲の悪い風紀からも何やかんや言われていた。
その時奴は、「俺を誰だと思ってんだ」なんて返していた。
余裕な笑みを浮かべて。
だが実は、その祝辞は入学式一週間前には完成していて、それから毎晩推敲されたものだったりする。
そのせいで寝不足な松村悠里にチャラい風紀副委員長が、
「昨晩もカワイ子ちゃんとお楽しみだったんじゃないのー?」
と茶化していたのだが、それには
「さぁな」
と髪をかき上げながらそう答えていた。
その仕草は肯定していると捉えられても仕方のないことだろう。
そして松村悠里は寮の部屋で一人、素に戻って重い溜め息をつくのだ。
そんな松村悠里の誰も知らない、知られていない本性を何故俺がこうも語れるのか。
もうお分かりだろう。
入学式の翌朝、俺は教室ではなく、ある部屋に向かい重厚な扉を開く。
中には既に四人が揃っていて、その視線が一気に集まる。
その中の一人、庶務が呆れたように口を開いた。
「俺らよりも遅くに登校なんて、ほんと何様なんですかね、アンタは」
コイツにとっては挨拶代わりの嫌味に、俺はいつものように答えるのだ。
「生徒会長様だろーが」
俺は──松村悠里は。
悪びれもせずに『生徒会長』の席に着いた。
というか遅れてごめんなさい。
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