一ヶ月目
そこには不快な表情の人々がひとかたまりになって前にある背中またはその前の人の踵を悶々と注視していた辺りにはカッと照りつける日光によって溶け出したむっとするような人の油の匂いが立ち込めその獣じみた匂いは自分以外の周りの人々がまるで人ならざる動物であるような幻想を抱かせる人々はいよいよ他人の迷惑というものを考える余裕がなくなったと見え次第に舌打ちやおいといった苛立たしげな声が交じり始めただがそれも開場五分前ともなると息を潜め彼らは四方向を囲む人々の気持ちが手に取るように分かるのであった前の人が腕時計をちらと見て天を仰ぐ後ろの人間はその人に話しかけることはせずとも深い共感を示した彼らは群衆はあと五分という僅かな希望を共有しているのであった無論目に見えて興奮が増していく人もいた彼らの動物性は時間を経るごとに大きくなっていくまるで彼らは動物的な本能を開花させるためにこのような焦れた環境に身を置いているかのようだったそして彼らよりも穏やかでないのがその群衆の最前列にいる人々である彼らは爛々と店先のSALEの文字に目をぎらつかせながらこの後起きるであろう悲劇つまりは開店と同時に全速力で走らなければ後ろの人々に押され倒され踏み潰されてしまうに違いないという想像に目を開かないようにしていたつまり彼らは人々の中で最も動物的なのだ自分が負けるはずがないという根拠なき自信ここにホモサピエンスの雑食動物たる進化の系統が見えるようであった