第19話 平穏
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翔「・・・」
『だから・・・・・
今関わりのある人が、誰かが・・・
私が殺してしまった人だったら、って思ったら・・・私・・・怖くて』
ギュ・・・
涙を流し始める名前を強く抱き締める翔。
翔「話してくれてありがとう。
今まで言えなかったの辛かったね」
『うん・・・ぅん・・・』
翔「ごめん、そんなに俺の言ったことで悩んでると思わなかった。軽率だったよ」
翔の腕の中で嗚咽を洩らす名前。
翔「・・・・・」
翔はそんな名前の背中を、目を閉じ静かに擦る。
名前が落ち着いてくると、ボソッと呟いた。
『・・・軽蔑しました?』
敬語になってしまったのは、翔との距離感が離れてしまったと思ったからなのだろうか。
翔は少し黙っていて不安になった。
誰でも知り合いが人を殺した記憶があると言われたら混乱するし離れたくなるだろう。
すると
頬を両手で挟み、名前の顔を上げさせる。
翔の真っ直ぐな瞳と名前の潤んだ瞳が交錯する。
翔「軽蔑なんてするわけないよ。
何も変わらない」
『っ・・・・』
翔「前世で何があったかまでは聞かないよ。
聞く必要もないしね。
だって今までもこれからも、俺は名前が大好き。
愛してる。
何があっても離れないよ」
その言葉にまたボロボロ涙を溢す。
話すのに相当の勇気が必要だったことや、今まで苦しんでいたことをやっと1人に言えたという安堵からだった。
『ありがとう、私も大好き』
2人の影が重なっていった。
ーーーー
翌日
『おはようございます』
花「おはよう。あれ?何か雰囲気変わった?」
花枝は出勤してきた名前がどこか柔らかい雰囲気を纏っていたため頭に?を浮かべた。
『ふふ・・・少しだけ、心が軽くなったんです』
花「松崎くんのおかげ?」
花枝の言葉に名前は小さく頷いた。
お熱いわねーなんて茶化してくる。
『吾朗ちゃんにも話して安心させてあげたいです』
花「そうね、来てくれると良いわね。」
お昼時のピークまで誰も知り合いはやってこなかった。
さらにそのまま接客をし、閉店の時間になっていた。
真島が来なかったことを寂しく思いつつ閉店作業をしていると陽気な声が聞こえてきた。
真「よぉ、今日は遅くなってもうた」
『え、今?もうお弁当ないよ?』
真島は弁当は申し訳ないがいらないと言っていた。
じゃあ、どうして今さら来たのか聞くと、携帯をヒラヒラさせてアピールしていた。
真「店長はんから連絡あってのう。
時間があるとき来てくれって」
花枝を見るとウィンクしていた。
別に急ぎの用ではなかったため、申し訳なくなる。
花「名前ちゃんがさ、良いことあったって言うから聞いてあげてください。
今日は少し早めに上がって良いわよ」
『え?え?』
名前が戸惑っていると花枝が名前の荷物をまとめてドサッと渡してきた。
真「ま、とりあえずいつものバー行こか」
『え、あっ、待って!
あ、お疲れさまです!ありがとうございます!』
真島にも花枝にも焦りながら話す名前は、すでに歩いている真島を急いで追った。
いつものバーに来ると、ママが嬉しそうに迎えてくれた。
客はほとんどいない。
カウンターに通され、真島はウイスキー、名前はカルピスを頼んだ。
真「で?良いことってなんなん?」
『・・・良いことっていうか、安心してもらいたいことっていうか』
名前は、ゆっくり昨日の話を真島にした。
前世のことを翔に話したと。
真「・・・スッキリしたんやないか?」
『うん、ずっと秘密にしていたことを言えたから』
真島は、今まで翔に違和感を覚えていたのを後悔した。
こんなにも名前のことを考えて大切にしてくれていたのかと思うと同時に、少し胸がチクリと痛んだ気がした。
『今まで吾朗ちゃんに頼りきりだったからさ、安心してほしくて。
他にも頼れる人ができたよって。
自分を偽らなくて済む人ができたよって』
嬉しそうに笑う名前に、真島も目頭が熱くなってくるのを感じる。
今までの生活の中で一番と言っても良いくらいの笑顔だった。
翔にだったら名前を任せても良いのかもしれないと思った。
真「松崎は良いヤツなんやな」
『うん。』
ママ「恋バナ聞いてるだけで若返る気がするわ。」
静かに聞いていたママが会話に入ってきた。
核心に触れる単語を話してしまっていた気もするが、やはりママは大人だ。聞かないふりをしてくれたのだろう。
『ママさんもありがとう』
ママ「ふふっ、どういたしまして。」
真島はママと話す名前の顔を優しい目で見ていた。
自分が、真島組が名前を守らなくなる日も来るのかもしれないと。
真島組の奴らは納得しなそうだな、と1人で苦笑するとママにも名前にも訝しげな顔で見られた。
真「ま、名前が幸せなら何でもええわ」
真島は口角を上げた。
後に凄惨な事件が起こることなど、誰にも予想できなかった。