第10話 14年後
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『ありがとうございましたー』
とりあえずできていた行列をさばき、一息つく。
店頭に並べていた弁当の在庫が少なくなってきたため、奥から持ってきて並べていると、ふと遠くの方に人影が見えた。
「昼メシ、弁当にしましょ!あそこの弁当美味いって噂なんスよ」
「ああ?そんなんどこでも食えるやろ。俺ぁ今牛丼の気分や」
『!!』
小さく聞こえた2人の声。片方には聞き覚えがあった。
バッと顔を上げてその人たちを見ると、名前は目を見開いた。
片方の人は見たことのない顔だったが、もう一人には懐かしさを感じた。
隻眼に鼻筋の通った面長の顔。
『(きっと、そうだ。でも・・・)』
確信は持てなかった。昔の雰囲気と全く違っていたからだ。
昔はオールバックポニーテールに黒のスーツが基本だったが、今近くにいる人はテクノカットで素肌に派手なジャケットを羽織っている。
その瞬間、牛丼を食べたいと言っていた隻眼の男がこちらを向く。
目が合うと確信した。やはりあの人が真島吾朗だと。
真島も気づいたのか目を見開きこちらを見ている。
『あ・・・』
「お姉さん、のり弁1つちょうだい!」
『え、あ、はい!』
真島に声をかけようとした時、タイミング悪く客が来てしまった。
仕事中のため客を優先した名前。会計を終え再び前を見た時にはもういなくなっていた。
『本当に、いた・・・』
生きていてくれたことに安堵する。一目見れただけでも嬉しかった。
閉店後、花枝が声をかけてきた。
花「今日何かあった?午後から上の空だったでしょ」
『え?そ、そうでした?』
花枝は、昔から一緒だからなんでもお見通しだと話す。
『・・・会えたかもしれないんです』
花「え、例の探してる人?」
『はい。14年も経ったから、見た目は凄く変わってたんですけど、あの人だ!って思って』
花枝は良かったねと自分のことのように喜んでくれた。
その後残った業務を片付けて家路につく。
夕方に閉店し、今はもう外が暗くなっていた。
花「じゃ、気をつけて帰るのよ。私はいつものバーに寄ってくから」
『はーい、お疲れさまです』
途中で別れ、疲れと眠気に負けないように家に帰った。
それからしばらく、真島を見かけることはなかった。
そして1ヶ月後、ついに再会の時が来た。
『いらっしゃいませー』
いつもと変わらない日常。今日も弁当を求めて店に来るお客さんの対応をしていた。
「こんにちは!唐揚げ弁当4つちょうだい!」
『はーい
(あれ、この人・・・)』
自分の記憶が正しければ以前真島と一緒に弁当屋の前を通った人かもしれない。
「いやぁ、前にここの弁当を食べたいって親父に言ったら牛丼の気分や言われて。
やっと食えるから嬉しいよ」
やっぱりそうだと思った。
運良く他の客がいなかったため、弁当を用意しながら話をしてみることにした。
『喜んでいただいて嬉しいです』
「もう何で親父はここに来たくないなんて言うんだ?」
『え・・・』
名前は固まる。
真島は来たくない、とハッキリ言っていたらしい。
「いや、違っ、親父は好き嫌いが激しくて!ここの弁当云々とかじゃないし、名前ちゃんも花枝さんもキレイだし!
きっと親父が変なだけだから」
『その親父って、真島吾朗って人?』
名前の言葉に男は驚き、感動していた。
「親父を知ってるの?いやぁ、さすが親父、有名人なんだな」
『今日は一緒じゃないんですか?』
男は、真島は公園で一服しながら待っていると話す。
花枝は1人の客とじっくり話をしている名前に気づき、どうしたのか問いかけた。
『・・・私、真島さんと昔の知り合いで。真島さんと話してもいいですか?』
男は快くOKする。花枝も、ピークの時間は過ぎたから1人でも大丈夫だと言ってくれた。
『ありがとうございます』
「じゃあ、こっち。ついてきて」
男は唐揚げ弁当を持って、名前の前を歩いていく。
名前の心は期待と不安が入り交じっていた。
真島は私がいることを認識した上で来たくないと言っていたのだ。
その事実は変わらない。その理由が聞きたかった。
聞けば吹っ切れるかもしれない。
『ふふっ、ただの恋する乙女みたい』
小さい声で呟く。
幸い前を歩く男にはその声は聞こえなかったようだ。
歩いている途中に、真島は今、真島組という嶋野組傘下の組織の頭になっていると聞いた。
そして今案内している男は西田と言うそうだ。
『(極道に戻れたんだ・・・良かった)』
もうすぐ真島がいる公園に着く。
果たしてどんな再会になるのだろうか。