第38話 ホルモン
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2010年12月某日
『え?焼肉?』
吾「せや。冴島と飯食いに行こ思とるんやが、名前も一緒にどうや?」
『冴島さんと吾朗ちゃんって兄弟分でしょ?水入らずで話したほうが楽しいんじゃないの?』
真島とご飯に行くのは抵抗がない、冴島とのご飯もまぁ、大丈夫だろう。
しかし、真島と冴島が一緒となれば話は変わってくる。
2人の思い出話についていける気もしないし、そもそも2人はどんな話をするのだ。
吾「んなことあらへん。むしろむさ苦しいオッサン2人きりの飯の方が辛いわ。な、奢ったるから」
『別に奢る必要はないけど・・・まぁ、吾朗ちゃんたちがいいなら』
吾「おおきにやで」
『・・・?』
何か真島の雰囲気がいつもと違うような気がするのは気のせいだろうか。どこか元気がないような、そんな様子だ。
ご飯を食べれば元気が出るだろうか。
というわけで、名前は真島、冴島とともに焼肉に行くことにした。
焼肉屋・韓来
神室町にある焼肉屋、そこに3人は集まった。
編みいっぱいに肉を敷き詰め、焼けた肉でご飯をかき込んでいるのは冴島。
それを見て驚いているのは名前。ため息を吐いているのは真島だった。
『よく食べるんだね、冴島さんって』
吾「はぁ・・・焼肉ならもっとええ店あるやんか。麻布とか六本木とか、それこそこの近辺にも」
真島はもっと良い店で焼肉を楽しみたかったようだ。
『何でそんなにここが嫌なの?』
吾「シャバ最後のメシが神室町の、それも行きつけの店やなんてホンマ・・・惨めになってきたわ」
『・・・・・・は?』
“シャバ最後”と言ったか。
どちらかが逮捕されるのか、そんな事聞いていない、という目で2人を見る。
冴「おう、姉ちゃん、ホルモン追加や!」
『ちょっと、スルーしないでくださいよ』
冴島はゆっくり話し始めた。
自分は25年前人を殺していなかったが、それでも傷害罪ではある。
今後の東城会のためにもしっかり罪を償い、服役を終えて再度東城会幹部として戻ってくるという。
『へぇ・・・極道も大変ですね、やっぱり。だから吾朗ちゃん元気無いの?』
せっかく再会できた冴島がまた服役するため、真島は気落ちしているのではないかと思った。
吾「それもあるんやけど、なんか最近食欲もないねん。特に脂っこい肉は胃が受けつけん。
カルビ1枚で白飯1合食っとった時代が懐かしいわ」
『すごっ』
自分と会う前だろうか、それとも自分と離れてからだろうか、と思っていたが冴島も一緒だということを考えると、冴島が服役する前の話だろうと思った。
吾「もうあん頃には戻れんのかのう。毎日がギラギラしとったあん頃には・・・」
沈黙するテーブル。名前はなんとフォローしたら良いか分からず静かにジュースを飲んだ。
「はい、ホルモンです」
ホルモンが到着すると、冴島は皿のホルモンを全て網に入れて焼き始めた。
冴「何アホ抜かしとるんや。ほら、食えや。名前も」
冴島は、網にあった既に焼けているホルモンを2人に渡した。名前には綺麗に焼けたものを、真島には焦げたものを。
吾「何やこれ?丸コゲやないかい!」
『コゲてるのもカリカリで美味しそうだよ』
冴「そのホルモンと同じや、俺もお前も」
突然ホルモンと自分たちを重ねて語り始める冴島。
肉は焼きすぎると固くて食べれたものではないが、ホルモンは焼かれてこそ価値があると。
真島はピンと来なかったようで「あ?」と聞き返している。
冴「焼かれて焼かれて、真っ黒なるまで焦げて、脂落として味磨くんや」
その言葉に、真島は焦げたホルモンを口に入れてみる。
思った以上に美味しかったようで、目を輝かせていた。
冴「ほんなら、これはどや?」
冴島は生焼けのホルモンを真島の皿に乗せた。
『え、ちょ、あ』
名前が困惑しているうちに真島はそれを口に入れてしまった。案の定ペッペッと吐き出していたが。
『一応衛生管理しっかりしてる弁当屋店員の前なんですけど。生焼けホルモンを直箸で取って食べさせるとか止めてください』
冴「そや、生焼けのホルモンくらい食えへんもんはない」
『(反省してる?食中毒なるよ?)』
ジト目で見る名前を気にせず冴島は続ける。
自分たちは所詮ヤクザ、育ちのええ肉とはちゃう。
真「俺らはホルモンみたいなクズっちゅうことか」
冴「そや」
『ホルモン、好きだけどなぁ』
冴島はまだ自分たちは焼かれなければならないと言う。
なぜ2人はこんなにも責任感が強いのだろうか。
この2人より素行の悪い一般人などいくらでもいる。
芯が一本通っており、守るべきもののために真っ直ぐ生きる2人が羨ましいと思ったこともあるほどだ。
冴「俺が戻ってくるまでの間、お前、しっかり店守っとけや。あの若い料理長、傍で支えたれ」
東城会をホルモン屋に見立てる冴島。
東城会6代目の堂島大吾は良い腕を持っているが、周りには生焼けの連中ばかりだと。
今、東城会は組員の数は過去最大の規模だが、戦争を知らないため、他の組と争いになったら逃げ出してしまうだろうと危惧していた。
『その生焼けホルモンを、吾朗ちゃんとか冴島さんたちが焼いていくわけだね』
冴「そや。それが今もここにおる理由やからな」
自分たちが輝く時代は終わったのだ、今は、次に輝く世代を育てていく必要がある。
それが自分たちの役目だという。
『プロのヤクザだね』
吾「なんやねん、プロのヤクザて」
『でも、かっこいいよ』
吾「さよか?
よっしゃあ!ほな俺も腹一杯食うとくか!」
網に残っていた黒焦げのホルモンを真島が取ろうとすると、すかさず冴島が摘み上げ自分の口に放り込んだ。
不満げな真島に、早く食べないと燃えカスになってしまうと言う冴島。
吾「クソ、人がせっかくやる気になったっちゅうのに・・・
おい姉ちゃん!特上ホルモン追加、3人前・・・いや、10人前や!ほら、名前もたらふく食べや!」
『ふふっ、私もいっぱい食べよ』
調子が戻ってきた真島を見て嬉しく思う名前。
冴島が帰ってきてから真島は楽しそうだった。
また数年服役はするが、25年に比べたらわずかの時間だ。
今後一緒に仕事をすることを楽しみにしているのだろう。
『ごちそうさまでした、ホントに奢ってもらっちゃって良かったの?』
吾「かまへんかまへん。名前が食った量なんて俺らに比べたら雀の涙や。
で、兄弟、これからどないすんねん」
今日の夜、迎えが来ると言っていた。
それまでに妹の件でお世話になった伊達のところに顔を出したいと言う。
吾「ほな、俺は“あそこ”で待っとるわ。顔出してくれや、見送りさせてもらうで。
名前はどないする?」
『・・・ここまで来たら私もお見送りしたいよ』
真島と名前は、真島たちの思い出の場所であるバッティングセンターで待つことにした。