第35話 冴島大河
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
イブラヒモビッチも果敢に攻めるが、冴島にガードされ、カウンターをもらい、ほとんど冴島は無傷の状態だった。
そしてイブラヒモビッチを下した冴島。
イブラヒモビッチは意識はあるがもう倒れて動けないような状況だった。
もう勝敗は決まったも同然で、2人を囲んでいた金網も上がったが、ここで客席から声がかかる。
客「早く殺せよ!」
『!』
闘技場はどちらかが死ぬまで続けられるというルールだった。客はその最後の瞬間を一番楽しみにしているのだろう。
名前は客から聞こえる声に怖くなって震える。
冴島は客席をぐるりと見回し客の様子を見ていた。
殺し合いを楽しんでいる客に怒りを覚えているのか、困惑しているのか。
そんな様子も知らず、客席からは
「殺せ!殺せ!殺せ!」
と大声が飛ぶ。観客は立ち上がり、手を叩いたり拳を突き上げたりして捲し立てながら殺せコールをしている。
『っ・・・・』
名前は涙が出そうになっていた。
なぜこんなにも簡単に「殺せ」など言うことができるのか。
しかも見たところ全員ただの金持ちの一般人だ。
花屋「大丈夫か?」
『ダメ・・・辛いです』
花屋「すまんな、連れてきちまって」
花屋は自分の身体を抱きしめながら震える名前を見て、一緒に来るかと誘ったことを後悔していた。
殺し屋だった前世のことを聞いていたが、普通の人と何ら変わらない生活をしており、もう吹っ切れているものだと思っていた。
客「てめぇは18人も殺したんだろうが!
今さら1人増えても問題ないだろうが!」
名前はそれを聞いて耳も塞ぐ。
客は人を殺したことがないのだろう。何人殺すも一緒なんて、そんな簡単なことではない。
その声には冴島も悲しみの表情を露わにしていた。
客「何ためらってんだよ!早く殺せ!」
客席から何かが飛んでくる。
それは鞘に入った剣だった。
冴島は静かにその剣を手に取り、鞘から抜いた。
花屋は名前を気にかけつつ、その冴島の様子をじっと見ている。冴島を試すかのように。
『(だめ・・・冴島さん・・・だめだよ・・・)』
名前は耳を塞ぎながら、涙ぐむ目で冴島を見ていた。
絶対に殺してはいけないと思いながら。
声に出して冴島に伝えたいが、そんなことこの状況でできるわけがない、できないことに申し訳なく思いさらに辛さを感じる。
冴島は読めない表情でイブラヒモビッチにゆっくり歩いて向かっていく。
その間も観客から囃し立てる声が飛んできているようで、耳を塞いでいてもザワザワした声が響いている。
イブラヒモビッチは近づいてくる冴島に、覚悟を決めた表情になる。
そして冴島は歯を食いしばると
剣を捨てた。
冴「黙れや、オラァア!」
静まり返る会場。
名前は会場の雰囲気が変わったことに気づき、耳を塞いでいた手をゆっくり外した。
冴「誰や今俺に“1人増えても問題ない”言うたヤツは!?」
冴島は会場を見回しながら言う。
そして声が聞こえたであろう方向にいた男に「お前か!?」と怒鳴る。
男は本当に言っていたのか、気まずそうに目を背ける。
冴「お前ら、殺せ殺せ言うてるけどもやなぁ・・・
こん中でホンマに人殺した奴がおるんかコラァ!?」
『!!』
名前はビクッと肩を震わせる。
その時冴島はちょうど名前を視界の端に捉えており、引っ掛かりを覚えるが今は周りの観客に物申すことにした。
冴「ええか?教えといたるわ」
『・・・・』
冴島の雰囲気が怒りから悲しみに変わってくる。
冴「人を殺すっちゅうんはなぁ・・・
人を殺すっちゅうんはなぁ・・・!
ごっつ恐いもんなんじゃ!」
涙を流しながら訴える冴島に、名前の目からも涙が溢れる。
冴島は25年前から毎日18人殺したときの夢を見ると言う。
感触や死んでいった人の顔、全て事細かに夢に出ると。
冴「死んだ人間の家族に申し訳ないとか、そんなん当然思う」
『・・・っ・・、ぅ・・・』
名前は声を押し殺しながら泣いている。
自分も同じだからだ。
頻繁に暗殺してきた瞬間、暗殺した人、そしてその遺族の夢を見る。
花屋「ここから出るか?」
名前の様子を見ていた花屋がコソッと声を掛ける。
しかし名前は首を横に振った。冴島の話を聞いていたいと。
冴「せやけどな、せやけどな・・・!
そんなもんちゃうねん!
人を殺したらなぁ・・・殺した人間は恐怖から逃げられへんねん」
その通りだ、毎日毎日怖い思いをしなければならない。
冴「それがどんなに苦しいことか、お前らには分かるか!?」
『(わかる・・・わかるよ、冴島さん・・・)』
冴「くだらん、こんな勝負は・・・。
俺は降りる」
冴島は花屋に向かって話す。
そして静かに泣いている名前を一瞥すると、踵を返し闘技場を出ていった。
『(優しい人・・・)』
花屋「俺等も行くか」
花屋は、闘技場から出て冴島の所に行こうと言う。
名前はもう少し冴島と話をしたいと思い、ついていくことにした。
闘技場から出ると、冴島がちょうど着替え終わり闘技場外の歓楽街を歩いて行こうとしていたため花屋が呼び止めた。
花屋「やっぱりアンタは、ただの殺人鬼ってわけじゃなさそうだ」
冴「どういう意味や」
先程の勝負で本当にイブラヒモビッチを殺そうとしていたら、組長を探してほしいという頼みを断るつもりだったと花屋は話す。
花屋「ここの観客は血を求めて集まってる。
・・・だが俺は殺し合いをさせてるつもりはねぇ。
アンタが人間としての感情を持ってることがわかって、安心したぜ」
花屋は冴島が探していた笹井の居場所を教えると話し、モニタールームへ移動し始めた。
『・・・・』
名前は何も言わず花屋の後を追った。
その様子をじっと見ながら冴島も歩く。
再び自分のトラウマと向き合うことになった名前。
同じ痛みを知る冴島と出会い、どう変わっていくのだろうか。