第1話 始まり
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『彼女がいるの?』
眉を下げて聞く名前を見てポカンとする3人。
そして
悟・傑・硝「ぶっ!」
吹き出された。
『な、なんで笑うのっ!こっちは真剣なんだよっ』
硝「ははっ、ごめん、名前が可愛くてさ」
傑「怒らせる気はなかったんだけどね」
ひとしきり地べたをドタバタしながら笑ったあと、五条は名前に手招きする。
しかし、笑われてムカッとした名前はプイッと顔を背け、五条の方には行かなかった。
悟「悪かったって」
五条は腰を上げると自分から名前の横に行き、ポン、と頭に手を乗せた。
悟「彼女なんて作るわけねーだろ。俺だってお前のことで頭がいっぱいだったんだからよ」
『!』
硝「五条はかなりモテてたんだから」
傑「ずっと断ってたけどね」
何人もの女子に告白されていたが全て断っていたという。自分には心に決めた女がいるから、と。
悟「まぁ、本当に、しかもこんなにすぐ会えると思ってなかったけどな」
『じゃあ、私がこの世界に来てなかったら一生誰とも付き合わなかったってこと?』
悟「どーだかな。名前だって憂太と結婚しただろ?」
前の世界でのことを持ち出され、焦る。悲しい思いをさせてしまったのだろうか。
『でもあれは、悟が手紙で“自分が認める男とならいい”って書いてたから!むしろ前を向いて人生を歩んだ方が悟は嬉しいのかなって・・・』
申し訳なく思い、焦りながら話をする。
やはり乙骨とでもダメだったのだろうか。
悟「ククッ、冗談だって。そりゃ嫉妬はしたけど、名前が幸せそうで俺は嬉しかった。
けど、今回はその役は俺がもらう。いいよね?」
『・・・・それは、告白、ってこと?』
悟「もちろん。で、返事は?」
『うんっ!』
名前はギュッと五条に抱きつく。もう離すまいと。
夏油と家入はホッとしたように息を吐いていた。
と、その時、ふと下を見た夏油が何かに気づいた。
傑「あれ、知ってる顔がいるけど」
悟「ん?」
夏油の言葉に、全員フェンスの方に向かい下を見下ろす。
するとそこにいたのは、
『七海さん・・・雄くん・・・』
五条らが学生時代に1つ下の後輩だった七海建人と灰原雄だった。
名前が五条らに視線を送ると、全員頷いていた。名前がしたいことがわかったのだろう。
名前は大きく息を吸うと、
『七海さんっ!雄くんっ!』
大きな声で2人を呼んだ。
2人は一瞬肩をビクつかせ、声のした方を見る。
七海はポーカーフェイスを崩して目を丸くし、灰原はニコッと笑っていた。
そして踵を返し校舎に入る。きっと屋上に来てくれるのだろう。
『あの2人も来てたんだね!』
傑「随分嬉しそうだね」
『嬉しいよ・・・だって、2人とも、突然いなくなっちゃったから』
悟「・・・」
灰原は、まだ名前が小さかった時、夏油がまだ離反する前に出た任務で。
七海は、渋谷事変で別行動をしている時に真人に。
ガチャ
控え目に屋上のドアが開けられる。
そしてヒョコッと顔を出したのは灰原だった。
灰「先輩たちもこの世界にいたんですね!!」
灰原は尻尾を振り回す犬のようにこちらに駆けてくる。
七海は後ろからため息をついて歩いてきた。
『雄くん、だよね。私、名前だよ、覚えてる?』
灰「うん。名前ちゃんのことは空港からずっと見てたからわかるよ」
空港。自分も亡くなった時にそこで五条たちに会った。
みんなもそこから見守っていてくれたのだろうと思うと嬉しい。
七「この世界に来ても貴方たちと一緒ですか」
悟「いやぁ、七海も嬉しそうでよかった」
七「相変わらず貴方は自由奔放そうですね」
わざとらしく言う五条に呆れる。しかしそう言いつつもはにかむ七海はやはり嬉しい気持ちもあるのだろう。
『・・・・うぅ・・・』
傑「ちょ、名前?」
突然しゃがみ込み唸る名前に全員驚き近くに寄る。
名前の背中は震えていた。
悟「おい、どうした?」
『うぅっ・・・嬉し、くてっ・・・またっ、みんなと、楽しく・・・話せるんだって、思ったらっ・・・』
顔を上げた名前は目から大粒の涙を流していた。
何十年も夢見た光景。
この世界に来て、前と同じ家族に出会えて幸せいっぱいだったがまだ足りなかった。
五条に、みんなに会いたかった。それが叶ったのだ。
『ぅわぁあんっ』
名前は五条に縋り泣きじゃくる。
それは五条と出会った4歳児に戻ったかのようだった。
五条らは小さく笑うと、名前の背中を擦り落ち着くまで一緒にいた。
硝「さて、つもる話はこれからいつでもできるでしょ。毎日一緒なんだからさ」
傑「そうだね、名前とか1年2人の家族が心配するから今日は帰ろうか」
悟「そういや、名前の家族も前の世界と同じなのか?」
『うん、同じだよ、お母さんお父さんと、お兄ちゃん』
泣き腫らした目だが、嬉しそうに返事をする名前に五条らはホッとする。前の世界では家族のことでとても辛い思いをしたのだ、幸せに生きてこられたことを自分のことのように喜んでいた。
悟「じゃあ、そのうち挨拶に行かねーとな」
『ふふっ、転入してすぐ彼氏ができたとか言ったら卒倒しちゃうかも。特にお父さん』
五条らと名前は記憶があるため、今会ったばかりでも初対面ではないのだが、家族は記憶が無い。今まで誰とも付き合ってきていない娘が、いきなり転入数日で彼氏を連れてきたら驚きだろう。
悟「彼氏じゃねーよ、婚約者だろ」
『ははっ、じゃあお兄ちゃんにも怒鳴られちゃうかもね』
もちろん五条が。
傑「愛されてるね、名前は」
悟「はっ、そんなの前々から知ってたろ」
『ほら、そろそろ帰ろう。また明日ね』
“また明日”
どれだけ希望に満ちた言葉なのだろうか。
この平和な世界でみんなと明日を生きられることが奇跡だ。
名前が大切にその言葉を言ったことに気づいた一同は、“また明日”と笑顔で返事をする。
ーーーーーーーーーー
『ただいまー』
母「おかえり。始業式だけだったのに随分ゆっくりだったわね」
家に帰ると、帰りが遅かったことを心配された。道に迷ったのかと聞かれたが、違うと答える。
『友だちができたんだ』
母「あら、もう?」
『うん。それに、楽しい学校だよ』
母「ふふ、良かったわね」
母は嬉しそうに相槌を打つ。この高校2年生という多感な時期に転校することにいくらか不安はあったらしい。
ホッとしたように笑い、夕飯の支度に取りかかっていた。
これからもきっと素敵な人生になりそうだ。