第1話 始まり
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そこからは少し説明の時間だった。
五条たちは高校時代から一緒だったようだ。その時の担任は夜蛾。
当時はとても驚いていたが、自分たちが一緒なら、また名前にも会えるかもしれないと思い、3人で一緒に教師の道を選んだのだという。
そして教師となり、夜蛾のツテで同じ学校に赴任した。昨年、乙骨らだけが入学してきた時には嬉しさもあったが、名前がいない寂しさの方が強かった。
硝「なんで名前がいないんだーって乙骨に責めてたな」
『なんで憂太くんに』
傑「前の世界で乙骨と名前が結婚したから、対抗意識というか、嫉妬が凄かったんだよ」
なるほど・・・と相槌を打ってそこで気づいた。
『憂太くんは悟が認める人でしょ?』
五条が遺した手紙には、自分が認める男となら結婚しても良いと書いてあった。悟は自分に何かあったら高専の1、2年を頼むと乙骨に言っていた。だから認める男だったのではないかと思っていたのだが。
悟「どこの馬の骨かわからん奴よりは良いけどさー」
やっぱり名前が他の男と結婚するのは、見ていて面白くなかった、と口を尖らせ拗ねた子どものように話す五条。
『・・・ねぇ、ちょっと待って』
悟「ん?」
『普通に接してるけど、私と悟の今の関係って、何?』
一度五条が亡くなった時点で婚姻関係はリセットされているのか、乙骨との関係が続いているのか、それとも・・・。
どっちなのだ。
記憶があることで大混乱だ。
しかも、以前は呪術高専という特別な学校に通っており、生徒も教師も少ない人数で絆も強かった。
だから五条と名前が付き合う、と公言した時も何事にもならなかったのだが。
『犯罪でしょ』
悟「それなんだよねー問題は。僕としては今すぐにもう一度告白して憂太との思い出を僕色に上書きしてあげたいんだけどさ」
校長が夜蛾だといえ、他の教師や生徒、保護者の目もある。教師と生徒が付き合っているなど知られたら、生徒もだが保護者からの学校の評価に響くだろう。
この高校は各学年4クラスもある。人の目がそれだけ増えているのだ。隠れて付き合うことも難しいだろう。
悟「ま、名前と一緒になれるんなら僕はここ辞めても良いけどね」
『ダメ。みんなと青春を送るんでしょ』
自分の青春にも、乙骨たちの青春にも、五条の存在は大きい・・・・と思う。だから今からいなくなるなど、それこそ教え子たちの青春を壊すようなものだろう。
『私は・・・悟と、楽しい学校生活を送りたい』
五条はサングラスの中で少し目を見開いたあと、フッと笑う。
悟「あとは、名前のご両親にも挨拶しなきゃだしね」
『!!』
そうだ、そのことをすっかり忘れていた。
以前はもう家族が誰もいなくて、自分の判断だけで五条と付き合っていた。
しかし今は違う。自分を大切に育ててくれている家族がいるのだ。
『みんなのお父さんお母さんは、一緒なの?』
五条の言い方的に、名前の両親が前と同じであることを知っているかのようだ。もしかしたら、他の人もそうだったのかもしれないと思い聞いてみると、そうだと言う。
悟「名前の両親も、お兄さんも一緒なんだろ?」
『うん』
家族の顔を思い浮かべるだけで口元が綻ぶ。そんな名前の表情に、五条たちも嬉しく思っていた。
悟「いずれ改めて挨拶しなきゃね」
『うん、そうしよう。
それでね、悟・・・・・・あ』
名前は自分の気持ちを打ち明けたいと思ったが、もし周りで誰かが聞いていたら、五条が教師として働けなくなることもあるだろう。
扉の近くにいた硝子に声をかける。
『今、周りに聞かれちゃマズイ人、誰もいない?』
硝「・・・いないな」
家入が廊下を確認すると、戻ってきて話しても良いことを伝えた。
『・・・私さ、前の世界で憂太くんと結婚したけど、ずっと、最後の最後まで頭の中に悟がいた』
名前の言葉に、一同は黙って耳を傾ける。
『この世界に生まれてからも、悟に会いたくて仕方なかった・・・会えて良かった。私は、今でも悟が大好き。一緒に生きたいと思ってる・・・悟は?』
五条は一度ふぅ、と息を吐くとサングラスを取り名前を見つめる。
六眼はもう無いのだろうが、以前と同じ綺麗な水色の瞳に吸い込まれそうになる。
悟「ずるいな、名前は。僕から言おうとしたのに。
僕も名前が大好きさ。もう誰にも渡したくない。高校卒業まではこのままの関係で楽しもう。
でもその後は・・・僕のものになってよ」
『・・・うん』
高校卒業までは安々と触れ合うことなんてできない。今が最初で最後になるかもしれない。
五条と名前は両手を合わせて握り合う。
以前の、名前が呪力を渡す時と同じように。
両面宿儺と戦う前のように。
ガラッ
『わあっ!?』
真希「だーかーら!バカ目隠し!お前また名前を下に見た言い方しやがって」
いきなりぞろぞろ入ってくる真希をはじめとした1、2年生+パンダに驚く。
悠「良かったスね先輩!」
『ちょっと!なんで!?硝子さん!』
誰も近くにいないと言ったではないかと抗議の声を上げる。家入は全く気にしていない様子だ。
硝「“聞かれちゃいけない人”はいないだろ。もうみんな2人の関係知ってるんだから」
『それはそうだけどっ!みんな何回目!?』
真希「3回目だな」
棘「こんぶ」
パ「3だな」
最初の五条からの告白、そして乙骨からの告白、さらに今。名前が告白される現場に何度も立ち会っている2年生にプンプン怒っていた。
野「でもやっぱり“僕のものになってよ”はちょっと俺様すぎますね」
傑「はっ、悟らしいじゃないか」
『もう・・・・?』
そこで、まったく声を発していない人がいることに気づいた。伏黒と乙骨だ。
伏黒はこういう時には何も言わなそうだ。現に興味なさそうに窓の外を見ている。
しかし、乙骨は気まずそうにしている。
名前には五条に再会できて良かったと伝えられたが、いざ告白の場面を見て、自分はどのような立ち位置にいれば良いのだと思い始めたようだ。
『憂太くん?』
憂「え、あ、なに?」
『ごめんね、複雑だよね。私もこんなことになると思わなかったからさ』
憂「ううん、名前ちゃんが幸せそうで良かったよ」
『憂太くんも大好きな友だちだからね・・・ちょっとみんなより特別な、ね』
憂「っ!!」
ペシッ
『いたっ!』
ニコリと笑って乙骨に安心させるような言葉を言ったつもりだったのだが、五条に頭を小突かれてしまった。
悟「こら、僕以外の男に特別とか言うんじゃありません」
『むー』
傑「さて、このままじゃ怪獣ゴジョゴンが復活しそうだ。これから新しい学校生活が始まるんだから、そろそろ解散しようか」
硝「そうだな。五条、私らは学生と違ってまだ仕事があるからな」
悟「うげー」
夏油と家入に引き摺られ、職員室の方へ向かっていく五条だった。
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『ただいまー』
母「おかえり。始業式だけだったのに随分ゆっくりだったわね」
家に帰ると、帰りが遅かったことを心配された。道に迷ったのかと聞かれたが、違うと答える。
『友だちができたんだ』
母「あら、もう?」
『うん。それに、楽しい学校だよ』
母「ふふ、良かったわね」
母は嬉しそうに相槌を打つ。この高校2年生という多感な時期に転校することにいくらか不安はあったらしい。
ホッとしたように笑い、夕飯の支度に取りかかっていた。
これからもきっと素敵な人生になりそうだ。