短編
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珊瑚の海。
「よう、スルメみてェに細っこいお嬢ちゃんよ。こんな所に呼び出して何の用だ?」
そこへ後からやって来たのは、隆々たる筋肉を持つ鮫の少女。
女性的な部分も少ないながら残ってはいるが、強面と言っていい顔に眉根を寄せて、スルメと称した相手に問う。
ちなみに
ただその体格や顔つきの差から、二、三歳は離れて見えてもおかしくはない。
「良かった、きちんとお手紙を呼んで、来てくれたのね」
鮫の少女を見た蛸の少女は、両手を胸の前で合わせながらわざとらしく安堵してみせた。
「実はね、貴女に取引を申し入れたいと思って」
「取引だと?」
にこやかにそう告げた彼女に、鮫の少女は訝しげな声を上げる。
「その前に自己紹介をさせてもらうわ。私はモニカ…モニカ・アーシェングロットよ。よろしくね」
「…アントニア・ロスカンテス。知ってるだろ」
蛸の少女…モニカは手を差し出したが、鮫の少女アントニアは彼女を鋭く睨みつけ鼻で笑う。
それを気にするでもなく手を下げると、モニカは話を続けた。
「悪い話ではないのよ、ロスカンテスさん。貴女はとても優れた身体能力を待っているけれど、勉学にお悩みでしょう?」
「何が言いたい、はっきり言え」
回りくどいというように低く唸るアントニアを見て、モニカは肩をすくめて笑う。
「せっかちさんね。いいわ、単刀直入に言うと…私が貴女を赤点から救って差し上げようと思って」
「…ほう?」
しん、と一瞬張り詰める空気。
アントニアは不敵に口端を吊り上げた。
「もちろんタダとはいかないわ。心苦しいけれど、取引と言うからには対価をもらわないといけないの」
「あ?金なんてねェぞ」
「いいえ…貴女には、私のボディーガードになってほしいの」
ひゅ、と。
流れるように動いた腕はモニカの首を掴んでいた。
本人からすれば大した力も入っていないだろう。
しかし、鍛え抜かれた指先は細い首をしっかりと囲い込み、モニカが逃げ出すことを許さない。
アントニアはにやりと、尖った歯を剥き出して凄絶な笑みを浮かべた。
「お嬢ちゃんよ、分からないわけじゃねェだろう?あたしは
言っている間に首はぎりぎりと、話せる程度に加減して締められる。
モニカは苦しげに顔を歪ませるが、ただ拳を固く握りしめて笑みを作った。
「…安く見られたものね。私は好き好んで取引なんていう、大人の真似事をしているのよ。恨みを買って、痛めつけられることなんて覚悟の上だわ」
お手本のような笑みを口元に貼り付けながら、モニカは獰猛な肉食魚の
「勘違いしないで。私はただ、貴女の力になりたいだけなの。海の魔女の慈悲の心に倣って、ね」
ふ、と笑い声か空気の漏れる音かわからないものが聞こえる。
紡がれる声は、呼吸のし辛さが感じられるもののただ穏やかに淡々と流れていく。
「とても惜しいと思うわ。学校で一番の強さと勇敢さを持つ貴女が、補習や教師の説教にその貴重な時間を削られてしまうのが。
それに、ボディーガードといっても四六時中付き従ってもらう必要はないのよ。私が貴女の名前を使って、貴女はそれを否定しないでくれたら充分牽制になるの。
貴女はそれ程におそれられているから」
悠々と語ってみせるモニカ。
アントニアはしばらく表情を変えずにそれを眺めていたが。
「…クッ、ふ、はは!がっはははは!!面白ェ!!」
モニカの首から手を離すと大声で笑い出した。
のけぞって虚空を仰ぎ、腹を抱えて心底可笑しそうに体を揺らす。
「気に入った!テメェ、ただの頭でっかちなクラゲ野郎だと思ってたが、度胸あるじゃねェか!」
小さく咳き込むモニカの背中を軽く叩きながら快活にそう言ったアントニアは、そのまま肩を抱いて声を潜める。
「いいだろう。直々にテメェをガードしてやるよ、スルメのお嬢ちゃん。
…ただし、次からのテストであたしが赤点を取っちまったら、イカもどきのタタキにしてやるぜ?」
「私はタコでモニカよ。…上等、元からそういう取引だもの」
ニヤッと先程までとは違う、悪戯めいた笑みを浮かべ右手を差し出すアントニア。
モニカはその手をしっかりと握り、微笑みを返した。
「契約成立ね」
〜その夜〜
「うう…怖かった…死んだかと思った…」
蛸壺に引きこもって震え、一晩中泣いていたモニカだった。
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