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空獄SS詰め①

こうでもしなきゃこの男を腕の中に閉じ込められない。
拙僧を大胆な男だと思っていた連中よ、残念だが拙僧にも意気地のない部分があるんだよ、バーカ。
今日は暖かかったからな、きっとバイクで出かけるだろうという予想が当たった。
広い通りで散歩をしながら行き交う自動車を目で追っておいて正解だった。
見覚えのあるバイカラーのジャケットを見つけて、声を張り上げて呼び止める。
根は優しい男だ、乗せろと話したところ溜息をついてあっさりと了承してくれた。
今日は山の方へ向かおうとしていたらしい。黒に赤のラインが引かれた真新しいヘルメットを受け取ると奴の腰に腕を回し乗り込むと重い音をふかして進み始める。
アスファルトの敷かれていない林道に入りスピードが緩められる。木陰に入ると頬に感じる風が幾分か冷たく感じる。
獄は何も言わないが、襟と胡桃染の髪の間からちらちらと覗く耳朶は赤かった。寒いのだろうか。
今だ答えを言い出せない意気地なしの拙僧はこういう時でないとこいつを腕の中に閉じ込めることができない。
理由を無理に作ってようやく抱き締めることが出来る。せめて風邪を引かぬように、腰に回した腕の力を強めた。
「痛ぇな」
うるせえよ、まだ寒いんだろ。耳真っ赤だぞお前。
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