このサイトは1ヶ月 (30日) 以上ログインされていません。 サイト管理者の方はこちらからログインすると、この広告を消すことができます。

空獄SS詰め②

一度自分の気持ちを認めてしまえば感情の波は揺らぎ不安定に動いてしまう。
きっかけは些細なもの、あいつの指輪を見つけただけ。
たったそれだけが俺の中の寂しいと言う言葉を底から引きずり出してしまった。
俺がどんなに会いたいと願っても時計は一定の数を刻む、あと何日だろう。
俗世から離れたあいつの所に電話は繋がらない、そういう物を必要としない場所にいる。
わかっている。これは俺の子供じみたわがままに過ぎない。

考えていても思考はどんどん女々しいものになるばかりであった。
寝室に向かおうとすると静まり返った室内に突然けたたましくチャイムが鳴り響いた。
「よう、ヒトヤ。元気にしてたかよ」
今まさに焦がれていた声に、息が詰まった。
「なんで、くうこ…」
戸惑いながらも精一杯言葉を紡いだが扉越しの声はそれを無視して語りかけるように続けた。
「ドアを開けるなよ、それから名前も呼ぶな。お前が今名前を呼ぼうとしている人間は今山籠りをしているはずだろ?」
「そいつがいなくて寂しかったか?」ひゃは、といつもの調子で笑い声が響いた。
「いやなに、拙僧はどっかの誰かさんが淋しがって泣いてないか覗きにきただけの…そうだなあ、ただの通りすがりだよ」
気付けば唇が震えていた。
だって、ずるいじゃないか。こんなに俺の中にお前の色を残しておいて顔も見せないなんて。
わかっている、お前は交わした約束は裏切らない男だということは。だから知らない人間としてここに来ている。
俺が会いたがっていることも見抜いた上で。

「クソガキが、自分のことを拙僧なんて言う通りすがりなんて一人しか知らねえよ…」
「ふ、そうかい」

なあヒトヤ、あとすこしだ。
あとすこしでお前に会える。
5/5ページ
スキ