ここで教えてくれたこと、みんなが知ってくれるんだよ。
最初の物語
ますたーのプロフィールは?
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いつものように外に出る。アパートの階段を降りて真っ直ぐ行くと、そこにはペストマスクを着けた不気味な鳥のパペットを持った、案山子姿の男がいる中央広場に出る。
「カカ、噂じゃ誰かの魔導書 だったらしい。持ち主のマナの量が膨大だったから、手放された後でもああして普通に動けるって話だよ」
カカは顔を布で覆い隠しているが、体格は見たところ普通の人間の男性のように見えるから、その噂が本当かどうかは全然分からない。
「けけけ、迷ってる?迷ってる?」
道に迷った人にパペットを使って話しかけ、道案内してあげるのが彼の役目らしい。今日もこうして声をかけられた。
「いや、今日はカカと話したくて来たんだよね」
「……案山子と…話したい?」
提案がどうやら不思議だったみたいで、彼は小首を傾げた。
「案山子は、案山子のことがことが、よくわわわわわからない」
「そうなの?」
「でででででも、みんなのことなら知ってる」
話し慣れないことだからか彼はとても緊張した様子だ。
「けけけ、バビロン、どんなところところところだと思う?」
「うーん。結構個性的な人が多いよね」
「個性的……」
中央広場には大きな噴水がある。
縁に座り込んだカカは天を仰いだ。ジブンもその隣に腰掛ける。
「バビロンには悲しみ悲しみがたくさんある」
「え?」
「ここに住んでいると、大陸くくくくくに降りられないし」
「……」
秘密の多い国だからか、外部に魔導書《グリモア》のことを出さない為にも、政府関係者以外は緊急時以外陸に降りられず、また過去にそんな緊急時は起きたことがないという。
「ここで生まれた子どもたちはなんだか悲しい悲しい悲しい顔をしてる」
「そっか」
「それに」
案山子男はごにょごにょと動かしていたパペットの顔をこちらに向けた。
「みんな、憎しみ、怒り、悲しみ……色んな暗いものをかかかかかか抱えているのが案山子にはわわわわかる」
「……それって陸でも変わらないんじゃないかな?」
「案山子は知りたい。誰と知り合った?」
自分は一人一人の名前をカカに伝えた。
「……そう」
それだけ言うと彼は立ち上がった。
「きっと、誰にも体験したことのない、色んな色んな色んなこと、知ることになる」
「え?」
「そのとき、壊れてしまうかもしれないけど、案山子は見守ってるるるるる、だって案山子だから」
パペットを動かしながら必死にこちらに向かってそう言う、その姿は焦っているように見える。
「どういう意味?」
「バビロンを嫌いになりそうになったら、案山子を頼っていいからね」
優しい声が頭に降りかかる。
瞬間、喉の奥を冷たい何かが通って背中を下っていくような、そんな悪寒を感じた。
カカを恐れたわけではない。
みんなが怖いわけではない。
バビロンを嫌ったわけではない。
多分これは未来への恐怖だ。
「……かかしさんは、バビロンがきらいなの?」
オーが不思議そうな顔で彼を見上げながら尋ねた。
彼はその質問に答えなかった。
きっと彼は何かの為に、無理矢理生かされているのかもしれない。
「魔導書 って、色んなことを知りすぎてるのかもしれないよね」
「叡知の賜物だと、魔導書館 の偉い偉い偉い人が言っててててててた」
「……うん。ありがとう」
彼と話していることが急に不安になってしまった自分は、ばつが悪くなって立ち上がった。
「そろそろ行くね」
「けけけ、いつでも会いに来てね」
当分はいいかな、と思った。
彼に対してなんともいえない気持ちになってしまう。
「ますたー…どうかしたの?」
「ううん。大丈夫だよ」
オーには何にもないって顔をしなくちゃ。
ジブンたちは何気ない生活用品を買ってから直帰した。
それから何気ない料理をして、食べて、入浴して、寝た。
「はっ!」
暗闇。
「聞こえるか?ニンゲン」
「え?誰?」
目の前が真っ暗で何も見えず、声だけが聞こえるが、それも知らない男の声だ。
「貴様らの言葉で言えば『カミサマ』ってヤツかな」
「神様?」
「そうだ」
そんな風に名乗られて、はいそうですかとはならない。
そもそもどういう状況なのかまるで飲み込めない。
「貴様は本当に珍しいニンゲンだ。マナが無限に溢れてくる貯蔵庫のようだ。よって特別に私がこうして出向いてやったのだ。感謝するがいい」
大陸で崇められているとある神様の母親は、こんな風に啓示を受けて神様を産んだのだろうか。
天上の人というのはそれだけで尊大なものなのだろうか。
「あの、ご用は……」
これは単なる夢だろう、と判断した自分は神様とやらに目的を尋ねてみることにした。夢にも何かしら意味があるものだと家族が言っていたのを思い出したからだ。
「この小さな国で、これから貴様は大いに困ったことに巻き込まれるだろう」
「困ったこと!?」
「貴様が出会ったニンゲンどもはその起点となる者たちで、それぞれがこれから大きな困難に立ち向かうことになる。それを貴様が手助けするのだから『大いに困ったことに巻き込まれる』のだ。分かるか?」
「いや、ジブン手助けするとは一言も言ってないんだけど……」
カミサマとやらは楽しそうに話し続けている。どうやらニンゲンの気持ちを考慮しないやり方らしい。
「困難が起きるタイミングが同時期になることもあろう。つまり時間が幾らあっても足りないのが『困難』ということ。だから貴様に『時間』を与えようと思っていてな」
「……んー……?はい?」
「分岐が別れればそこは既に平行世界。だから他の世界で見たものがまたその世界にあるとは限らない」
「え?何?何ですって?」
全く言いたいことが見えてこない。
「誰を手助けするのか、貴様には他のニンゲン以上の自由を与えてやるということでもある」
「は、はぁ」
「だからより面白いものを私に見せるがいい。楽しみにしているからな」
「あの……目的は何なんですか?」
男は間を空けて言った。
「ただの暇潰しだよ」
「はっ!」
大量の汗。気持ちの悪さを感じて顔を洗いに行こうと立ち上がると、オーが呻き声をあげているのに気がついた。
「オー!?」
抱えてパジャマのまま外に飛び出す。
もう街にもほとんど灯りが無い。
「……ま、すたー」
「オー!待ってて!」
階段を降りてすぐの広場に彼は居た。
「カカ!」
彼は状況を理解したのか、すぐにこちらに向かってきてオーの体に触れた。バチバチとマナが火花を立ててオーの周りを飛び回る。
「夢にカミサマと名乗る男が出てきた。何か知ってる?」
カカは頷いた。
「案山子の持ち主が、ししし死ぬ前に会ったって」
「会った?」
「夢で。予言をした」
パペットがこちらを向く。
「世界で一番の魔力を持つ人に、世界で一番の魔法をあげる。それは案山子が持ち主以外で信頼する唯一の人」
「それが……、ジブン?」
「不思議な力を使えるようにななな、なってる最中なんだ」
そう言いながらオーを見下ろすと、既に彼は眠り始めていた。
「印章魔導書 に……?」
「……これは光栄なこと」
「で、でも……みんな印章魔導書 を嫌って……」
「みんなを助けられるのは案山子の友だちだけ。案山子の友だちは世界一の魔法使いになる」
バビロンの困った人たちを助けろと、自分勝手に言うのだ。
「……そんな……ジブンには荷が重すぎるよ」
急に課せられた荷物に。
ただ不安が押し寄せてくるばかりだった。
こんな妙な経緯で、オーは印章魔導書 になったのだ。
「カカ、噂じゃ誰かの
カカは顔を布で覆い隠しているが、体格は見たところ普通の人間の男性のように見えるから、その噂が本当かどうかは全然分からない。
「けけけ、迷ってる?迷ってる?」
道に迷った人にパペットを使って話しかけ、道案内してあげるのが彼の役目らしい。今日もこうして声をかけられた。
「いや、今日はカカと話したくて来たんだよね」
「……案山子と…話したい?」
提案がどうやら不思議だったみたいで、彼は小首を傾げた。
「案山子は、案山子のことがことが、よくわわわわわからない」
「そうなの?」
「でででででも、みんなのことなら知ってる」
話し慣れないことだからか彼はとても緊張した様子だ。
「けけけ、バビロン、どんなところところところだと思う?」
「うーん。結構個性的な人が多いよね」
「個性的……」
中央広場には大きな噴水がある。
縁に座り込んだカカは天を仰いだ。ジブンもその隣に腰掛ける。
「バビロンには悲しみ悲しみがたくさんある」
「え?」
「ここに住んでいると、大陸くくくくくに降りられないし」
「……」
秘密の多い国だからか、外部に魔導書《グリモア》のことを出さない為にも、政府関係者以外は緊急時以外陸に降りられず、また過去にそんな緊急時は起きたことがないという。
「ここで生まれた子どもたちはなんだか悲しい悲しい悲しい顔をしてる」
「そっか」
「それに」
案山子男はごにょごにょと動かしていたパペットの顔をこちらに向けた。
「みんな、憎しみ、怒り、悲しみ……色んな暗いものをかかかかかか抱えているのが案山子にはわわわわかる」
「……それって陸でも変わらないんじゃないかな?」
「案山子は知りたい。誰と知り合った?」
自分は一人一人の名前をカカに伝えた。
「……そう」
それだけ言うと彼は立ち上がった。
「きっと、誰にも体験したことのない、色んな色んな色んなこと、知ることになる」
「え?」
「そのとき、壊れてしまうかもしれないけど、案山子は見守ってるるるるる、だって案山子だから」
パペットを動かしながら必死にこちらに向かってそう言う、その姿は焦っているように見える。
「どういう意味?」
「バビロンを嫌いになりそうになったら、案山子を頼っていいからね」
優しい声が頭に降りかかる。
瞬間、喉の奥を冷たい何かが通って背中を下っていくような、そんな悪寒を感じた。
カカを恐れたわけではない。
みんなが怖いわけではない。
バビロンを嫌ったわけではない。
多分これは未来への恐怖だ。
「……かかしさんは、バビロンがきらいなの?」
オーが不思議そうな顔で彼を見上げながら尋ねた。
彼はその質問に答えなかった。
きっと彼は何かの為に、無理矢理生かされているのかもしれない。
「
「叡知の賜物だと、
「……うん。ありがとう」
彼と話していることが急に不安になってしまった自分は、ばつが悪くなって立ち上がった。
「そろそろ行くね」
「けけけ、いつでも会いに来てね」
当分はいいかな、と思った。
彼に対してなんともいえない気持ちになってしまう。
「ますたー…どうかしたの?」
「ううん。大丈夫だよ」
オーには何にもないって顔をしなくちゃ。
ジブンたちは何気ない生活用品を買ってから直帰した。
それから何気ない料理をして、食べて、入浴して、寝た。
「はっ!」
暗闇。
「聞こえるか?ニンゲン」
「え?誰?」
目の前が真っ暗で何も見えず、声だけが聞こえるが、それも知らない男の声だ。
「貴様らの言葉で言えば『カミサマ』ってヤツかな」
「神様?」
「そうだ」
そんな風に名乗られて、はいそうですかとはならない。
そもそもどういう状況なのかまるで飲み込めない。
「貴様は本当に珍しいニンゲンだ。マナが無限に溢れてくる貯蔵庫のようだ。よって特別に私がこうして出向いてやったのだ。感謝するがいい」
大陸で崇められているとある神様の母親は、こんな風に啓示を受けて神様を産んだのだろうか。
天上の人というのはそれだけで尊大なものなのだろうか。
「あの、ご用は……」
これは単なる夢だろう、と判断した自分は神様とやらに目的を尋ねてみることにした。夢にも何かしら意味があるものだと家族が言っていたのを思い出したからだ。
「この小さな国で、これから貴様は大いに困ったことに巻き込まれるだろう」
「困ったこと!?」
「貴様が出会ったニンゲンどもはその起点となる者たちで、それぞれがこれから大きな困難に立ち向かうことになる。それを貴様が手助けするのだから『大いに困ったことに巻き込まれる』のだ。分かるか?」
「いや、ジブン手助けするとは一言も言ってないんだけど……」
カミサマとやらは楽しそうに話し続けている。どうやらニンゲンの気持ちを考慮しないやり方らしい。
「困難が起きるタイミングが同時期になることもあろう。つまり時間が幾らあっても足りないのが『困難』ということ。だから貴様に『時間』を与えようと思っていてな」
「……んー……?はい?」
「分岐が別れればそこは既に平行世界。だから他の世界で見たものがまたその世界にあるとは限らない」
「え?何?何ですって?」
全く言いたいことが見えてこない。
「誰を手助けするのか、貴様には他のニンゲン以上の自由を与えてやるということでもある」
「は、はぁ」
「だからより面白いものを私に見せるがいい。楽しみにしているからな」
「あの……目的は何なんですか?」
男は間を空けて言った。
「ただの暇潰しだよ」
「はっ!」
大量の汗。気持ちの悪さを感じて顔を洗いに行こうと立ち上がると、オーが呻き声をあげているのに気がついた。
「オー!?」
抱えてパジャマのまま外に飛び出す。
もう街にもほとんど灯りが無い。
「……ま、すたー」
「オー!待ってて!」
階段を降りてすぐの広場に彼は居た。
「カカ!」
彼は状況を理解したのか、すぐにこちらに向かってきてオーの体に触れた。バチバチとマナが火花を立ててオーの周りを飛び回る。
「夢にカミサマと名乗る男が出てきた。何か知ってる?」
カカは頷いた。
「案山子の持ち主が、ししし死ぬ前に会ったって」
「会った?」
「夢で。予言をした」
パペットがこちらを向く。
「世界で一番の魔力を持つ人に、世界で一番の魔法をあげる。それは案山子が持ち主以外で信頼する唯一の人」
「それが……、ジブン?」
「不思議な力を使えるようにななな、なってる最中なんだ」
そう言いながらオーを見下ろすと、既に彼は眠り始めていた。
「
「……これは光栄なこと」
「で、でも……みんな
「みんなを助けられるのは案山子の友だちだけ。案山子の友だちは世界一の魔法使いになる」
バビロンの困った人たちを助けろと、自分勝手に言うのだ。
「……そんな……ジブンには荷が重すぎるよ」
急に課せられた荷物に。
ただ不安が押し寄せてくるばかりだった。
こんな妙な経緯で、オーは
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