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最初の物語
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帰り道、書店に立ち寄る。
受付に座っている長い艶やかな黒髪を持つ美しい女性は、こちらに気がつく様子もなく何かを夢中で書いていて、ジブンは特に気にせず店の奥にある料理本に目をやった。
一人暮しはこれが初めてだから、少し勉強しておきたい。
手を伸ばすと、店の奥から快活な女の子の声が挨拶してきた。
「お姉ちゃん!お客様来てるよ!」
茶髪の長髪をふたつに束ねた可愛らしい女の子が受付の女性(実の姉妹とは思えないほど雰囲気が違う)に声を掛けている。
「あら?そうなの?確かに目の端に何か映ったような気がしたけど、湖の妖精か何かが来たのだと思っていたわ」
「お姉ちゃん妖精見たことあるの!?すごい!さすがだね!」
いや、絶対無いでしょ。
「リース、何を言っているの?妖精なんて見たことないわよ?」
「えー!?フォースお姉ちゃんのことだから見たことあるのかと思ったけど……」
「あのー、すみません」
自分はたまらず声をかけた。
「いらっしゃいませ」
姉の方はかなりの美人で、妹の方は大変可愛らしい。
「どうなさったのかしら?」
フォースと呼ばれていた姉はとても背が高くて、180センチ以上あるように思えた。妹との身長差が大きく見えるが、妹も160センチ台半ばくらいはあるだろうから、特別小さいということはない。
「料理初心者でもわかりやすいレシピ、おしえてほしいの」
オーがそう言ったのを聞いてリースがにっこりと笑いながら本棚を探った。
「おっと!これいいと思うんだ!リースでも調理出来たもん!」
「あら。私は出来なかったわよ」
「フォースお姉ちゃんは色んな面でスゴすぎるから料理なんて出来なくてもいいんだよ!」
「そうかしら?」
フォースはなんだかぼんやりしたような様子で、無表情のまま何かを考えているようだ。
「ねぇ、あなたは料理が作れた方が世界を征服できると思う?」
え?
「作れなくても世界征服くらいへっちゃらよ!」
「リース、あなたに聞いてるんじゃないわ。一般論としてどうなのか教えてもらいたいのだから」
何を聞きたいのか全く理解できないが、このフォースという人は常人と違う次元の思考の持ち主らしい。
「うーん、美味しいご飯で世界征服したらみんな幸せかもしれないですね」
「あら。それはとても素敵な考えね」
と声を張ったが、彼女は無表情のままだ。手帳を取り出して何かを書き留める。手帳の表紙には『世界征服計画』と書かれていた。
「あの、それは?」
「リースとお姉ちゃんは大陸含む、全世界の征服を目指してるんだ!」
「せかいせいふく?」
「そうよ。小さい頃からの夢なの」
本気なのか?
「なんてね。私小説家なの。これはただのネタ帳よ」
そんなことを言いながら彼女は手帳を閉じた。
「リースひとりで店番をさせるのは気の毒だから、こうして私も店頭に立っているのよ」
「へー!どんな本を書いてるんですか?」
「今はエッセイを書いているわ。読んでみる?」
ゆっくりとした動作で立ち上がった彼女は、後ろの棚から一冊取り出してこちらに渡してきた。
「……クッキー探訪記……」
「ええ。私クッキーで世界征服してみようと思ってて」
「ごめんなさい。もう支離滅裂でワケわからないし、世界征服は嘘ってさっき言ってたよね?」
「あら、ごめんなさい。私って存在自体妖精みたいなものだから。見たことは無いけど」
「うー?フォースのいってること、むずかしい」
オーがとうとう頭を抱えだしてしまった。
「誰もお姉ちゃんの価値観を理解なんて出来ないの!でもそれはお姉ちゃんが天才だからなんだよっ!」
「つまりそれってリースも理解してないってことじゃ……」
彼女は真っ赤になって頬を膨らませた。
「リースは特別なのっ!そんなこと言ったらお店出禁にしちゃうよ!」
「ええっ!?それは困る!見たところ本が売ってるところあんまり無さそうだし……」
「この国には大きな『図書室』があるし、
「そうなのよ!だからお客さんはこれからもお姉ちゃんを敬わないと出禁にされちゃって困ることになるの!」
「リース、もうやめなさい。みっともないわよ」
ビシッとこちらを指差す妹の手を下ろさせる。そんなところに姉らしさを感じた。何かしら間違っていると思うけど。
「ごめんなさいね。よろしければまた来てくれると嬉しいわ。その本は失礼な態度のお詫びに受け取って頂けるかしら?」
「ごめんなさい……」
あんまり腑に落ちてなさそうなリースが軽く頭を下げてくる。
「頂いていいんですか?」
「気にしないで。また遊びに来てくれる方が嬉しいもの」
ずっと真顔のままでそんなことを言う彼女は本当に優雅で美しく見えた。
「またくるね」
手を振ってお店を出ると、姉妹がこちらに向けて振り返してくれた。
「おもしろいおねえちゃんたちだったね」
「うん」
料理本を片手に、家に帰ろう。