ここで教えてくれたこと、みんなが知ってくれるんだよ。
最初の物語
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図書室に入って早々、騒がしい声がすることに呆然とさせられた。
円柱型の部屋にある壁の棚には一生かけても読みきれないほどの蔵書が所狭しと詰め込まれていて、ソファの横にある机や床に何冊かそれらが散らばってしまっている。
「おや、可愛い子が来たものだねぇ」
部屋に入ってすぐ右側にある受付にいた、目の下に深い隈のある女性がニヤニヤしながら、オーの身体を見回している。
痩せ型とは到底言えない彼女は無理矢理コルセットでウエストを作っているようで、なんだか動くのが辛そうに見える。茶色いボブの髪は全体的に右側に跳ねているし、長い袖の先から手が出ていないし、コートの下からクリノリンが剥き出しになっているしで、人目で見てかなり変わった人だということを認識した。
そういえばグレイとシトラはここを、
「あそこは動物園のようなところ」
「変人集団の掃き溜め」
と散々な言い様だったが、確かに納得だ。
「まさか、これは不思議屋本舗の店主様の手作り魔導書 ではないかね!?興味深いですぞ!」
「はいはい。ヒィ、それ以上は引かれるから止めようね」
彼女の後ろからひょっこりと現れたのは精巧な少年人形で、あまりのリアルさに一瞬ビックリしてしまった。
黒い口紅を施されたその人形も目の前の主と同様隈が描き足されていて、濃いグレーの前髪が透明度の高いエメラルドグリーンの右目を覆い隠している。帽子のせいで分かりにくいが、表情が険しい。
「嫌だもーん!その魔導書 を愛でさせてくれたまえー!」
「おれがいるから充分でしょ。じゃなくて、今のはアンタから愛でられたいとかそんなこと絶対思わないけど他人に迷惑かけたらいけないから仕方なく愛でられてやってもいいって意味だから!」
どういう関係なんだこの人と魔導書 。
「悪いね。うちの主人、常識はずれなんだ」
「いや、全然大丈夫だよ」
「こいつはヒステリカ・ツヴァイエ・ジールカ。おれはヴィンセント・アイザーン・ハインリッヒだよ。よろしく」
少し柔らかい表情で挨拶しながら手を差し出してくる。二人とも名前が長すぎて全然頭に入らないけど、取り敢えずヴィンセントでいいだろうか。彼の手を握り返した。
「ぼくは魔導書 がとてもとても大好きなのだ」
「うん。分かる」
「だからその子を見せておくれよー。どうか分解して中身までくまなく見させておくれよー」
「オー、ぶんかい、いやだよ?」
「きゃわいいい!天使なのだね!?控えめに言って天使なのだね!?」
「悪いけどトンカチか何か持ってたら貸してよ。一発ぶん殴ったら静かになるからさ」
「いや、それ死ぬよね」
ヴィンセントとヒステリカの、主従が逆転しているような不思議な関係に戸惑いながらも、その仲の良さになんだかほっこりとしてしまう。
「仕方ないなぁ。ハインに殺されたくないので仕方なく諦めてあげるのだよ。……あ、でも寧ろハインに殺されるなら本望か!」
「バカじゃないの?あんたの為に手を汚すとかデメリットしかないんだけど」
「おー!楽しそうじゃん!お客さん?」
バラのように真っ赤な美しい長髪をひとつに束ねているスタイル抜群の美女がこちらに歩み寄ってきて、つい見とれてしまう。
この国では珍しいパンツスタイルの女性で、右側が短く、左側が長い変わったズボンを履いている。その右腿には茶色いホルスターが取り付けられ、見たことがない形の拳銃が納められていた。
「アタシはミカ・ロートヴァイン。アンタ初めて見る顔だね!」
「きっとこの子は他の国から引っ越してきたのね。魔導書《グリモア》の勉強に来てくれたのかしら?」
拳銃が穏やかな声で話している。どうやら武器の形をした魔導書 らしい。
「それでは図書室名物ぼくのお手製魔導書 図鑑でも見るかね?」
「ヒステリカ。しつこくすると嫌われてしまうわよ」
ちぇー、と口を尖らせながら受付に突っ伏し始める。
自分は肩を上げてミカを見た。
「わたしはアンジェリーナ。ミカの魔導書 なの」
「武器の姿をした魔導書 は結構珍しいのだよ。さぁ、ミカ、そろそろぼくにアンジェリーナを見せたまえ」
「絶対やだよ!分解されたらたまったもんじゃない!」
ホルスターに手をかけながら後退りする彼女にヒステリカは眉をひそめた。
「そんなに信用ならないかねぇ……。善人中の善人だというのに」
「そうだそうだ!」
ヒステリカの肩に手を置きながら金髪の背の高い男が拳を上げて彼女を応援している。ヴィンセントが男に頭突きをして二人を引き離した。
「なんだよ!ちょっと触っただけじゃねーか」
「すぐ女に手を出すような男に主人を触らせるわけないだろ」
「あれー?もしかして嫉妬?嫉妬?」
「うるさいよ!ほんとに黙ってくんない!?」
背の高い男は群青色の目に眼帯を付けているが、支障がないほどに整った顔をしている。悪戯っ子のように笑うと八重歯が見えた。
そのままヴィンセントに触れようとして、少年人形はそれを華麗に避けた。
「フォルテさん!セクハラなのだよ!」
「味方してやったのにそんな言い種はねーだろ。ってか、お客さんの前でお前ら何やってんだ?」
フォルテと呼ばれた青年はこちらをチラリと見た。本当に目が合うだけでドキリとさせられる。
「わりーな、ここで接客レベルとか求めないでくれよ。お客さんが来るのが珍しいせいであんまり上手く出来ねーんだ。俺様はフォルテッシモ・セガール・メゾフォルテっていうんだ!よろしくな!」
「よろしくね。……結構楽しい人たちだと思ったんだけど、なんでそんなにお客さんが来ないの?」
オーも同じ疑問を持ったらしく、首を傾げている。
「図書室で働いとるのは全員、印章魔導書 とその持ち主なんじゃよ」
スイーッと高い位置から羽を広げて降りてきたのは黒く美しい羽を持つ賢そうな鴉で、話していることから容易に魔導書 だと理解できた。
「聞いたじゃろう?印章魔導書 持ちは犯罪者予備軍として監視されておる。しかもここには特に危険度の高いと言われておるSランク以上の印章魔導書 が揃っておるのじゃ」
それを聞いて全員の顔を見渡すが、特に悩んだ様子もなく、深刻さも見せず、ただへらへらと笑っているだけで、こちらの気が抜けてしまう。
「そうだ!つまりアタシは誰よりも強いってことなんだよ!」
「うん。確かにこの中じゃミカが一番強いのであるー」
「おう。納得だな」
強いとか強くないとか、戦いとは無縁そうな雰囲気の中、フォルテとヒステリカがふんぞり返るミカに拍手を送っている。
「犯罪者予備軍とか言われてつらくない?」
「そういうの気にしてたらお仕舞いなんだよ。だってアタシたちは自分の魔導書 を絶対的に信頼してるし、他人の声なんて気にする必要ないんだしさ!」
「俺様気にします」
「ぼくも気にします」
「気にするの!?」
ヴィンセントの華麗なツッコミが炸裂し、何故か照れたように笑うふたり。この人たちコントでもしているのだろうか。
「ミカがわたしを信頼してくれるのは嬉しいのだけれど、やっぱり後ろ指をさされることに申し訳なさはあるわ」
「ハインとかバッシュさんもそう思うかね?」
バッシュと呼ばれた老鴉がフォルテの肩に留まりながら首を傾げた。
「あまり思わんのう。儂、今の方が楽しいし」
「おれは結構考えるね。ただでさえヒィは生活能力皆無なのに、更に犯罪者のレッテル貼られるとか人生終わってるでしょ」
「あれ、なんだろう。涙出てきた」
「いじめすぎなの。ヒステリカさんかわいそう」
オーが珍しく起こっているらしく、カタカタと震えている。
「優しいねぇ。でも気にしなくていいのだよー。これは仲良しの証拠なのだからね」
「バカじゃないの?何がどうなったらそうなるんだよ」
まだオーにはどうして仲良しの証拠になるのかは理解できなかったようで、ふたりの会話を聞きながら疑問符を頭上に浮かべている。
「俺様たちに引いたりしないなんてやっぱ珍しーな。お前」
フォルテが嬉しそうに笑いながら自分を見てくる。
「また、このアタシに会いに来なよ!オススメの本とか集めといてやるからさ!」
「それいいわねー」
ミカとアンジェリーナがバタバタと本棚の方に走り去っていく。
「呼び止めて悪かったね。国外の本も取り扱ってるから読んでみてよ」
お客さんは自分とオーだけ。
貸しきりの図書室で懐かしい絵本や目新しい小説を見つけて楽しんだ。
円柱型の部屋にある壁の棚には一生かけても読みきれないほどの蔵書が所狭しと詰め込まれていて、ソファの横にある机や床に何冊かそれらが散らばってしまっている。
「おや、可愛い子が来たものだねぇ」
部屋に入ってすぐ右側にある受付にいた、目の下に深い隈のある女性がニヤニヤしながら、オーの身体を見回している。
痩せ型とは到底言えない彼女は無理矢理コルセットでウエストを作っているようで、なんだか動くのが辛そうに見える。茶色いボブの髪は全体的に右側に跳ねているし、長い袖の先から手が出ていないし、コートの下からクリノリンが剥き出しになっているしで、人目で見てかなり変わった人だということを認識した。
そういえばグレイとシトラはここを、
「あそこは動物園のようなところ」
「変人集団の掃き溜め」
と散々な言い様だったが、確かに納得だ。
「まさか、これは不思議屋本舗の店主様の手作り
「はいはい。ヒィ、それ以上は引かれるから止めようね」
彼女の後ろからひょっこりと現れたのは精巧な少年人形で、あまりのリアルさに一瞬ビックリしてしまった。
黒い口紅を施されたその人形も目の前の主と同様隈が描き足されていて、濃いグレーの前髪が透明度の高いエメラルドグリーンの右目を覆い隠している。帽子のせいで分かりにくいが、表情が険しい。
「嫌だもーん!その
「おれがいるから充分でしょ。じゃなくて、今のはアンタから愛でられたいとかそんなこと絶対思わないけど他人に迷惑かけたらいけないから仕方なく愛でられてやってもいいって意味だから!」
どういう関係なんだこの人と
「悪いね。うちの主人、常識はずれなんだ」
「いや、全然大丈夫だよ」
「こいつはヒステリカ・ツヴァイエ・ジールカ。おれはヴィンセント・アイザーン・ハインリッヒだよ。よろしく」
少し柔らかい表情で挨拶しながら手を差し出してくる。二人とも名前が長すぎて全然頭に入らないけど、取り敢えずヴィンセントでいいだろうか。彼の手を握り返した。
「ぼくは
「うん。分かる」
「だからその子を見せておくれよー。どうか分解して中身までくまなく見させておくれよー」
「オー、ぶんかい、いやだよ?」
「きゃわいいい!天使なのだね!?控えめに言って天使なのだね!?」
「悪いけどトンカチか何か持ってたら貸してよ。一発ぶん殴ったら静かになるからさ」
「いや、それ死ぬよね」
ヴィンセントとヒステリカの、主従が逆転しているような不思議な関係に戸惑いながらも、その仲の良さになんだかほっこりとしてしまう。
「仕方ないなぁ。ハインに殺されたくないので仕方なく諦めてあげるのだよ。……あ、でも寧ろハインに殺されるなら本望か!」
「バカじゃないの?あんたの為に手を汚すとかデメリットしかないんだけど」
「おー!楽しそうじゃん!お客さん?」
バラのように真っ赤な美しい長髪をひとつに束ねているスタイル抜群の美女がこちらに歩み寄ってきて、つい見とれてしまう。
この国では珍しいパンツスタイルの女性で、右側が短く、左側が長い変わったズボンを履いている。その右腿には茶色いホルスターが取り付けられ、見たことがない形の拳銃が納められていた。
「アタシはミカ・ロートヴァイン。アンタ初めて見る顔だね!」
「きっとこの子は他の国から引っ越してきたのね。魔導書《グリモア》の勉強に来てくれたのかしら?」
拳銃が穏やかな声で話している。どうやら武器の形をした
「それでは図書室名物ぼくのお手製
「ヒステリカ。しつこくすると嫌われてしまうわよ」
ちぇー、と口を尖らせながら受付に突っ伏し始める。
自分は肩を上げてミカを見た。
「わたしはアンジェリーナ。ミカの
「武器の姿をした
「絶対やだよ!分解されたらたまったもんじゃない!」
ホルスターに手をかけながら後退りする彼女にヒステリカは眉をひそめた。
「そんなに信用ならないかねぇ……。善人中の善人だというのに」
「そうだそうだ!」
ヒステリカの肩に手を置きながら金髪の背の高い男が拳を上げて彼女を応援している。ヴィンセントが男に頭突きをして二人を引き離した。
「なんだよ!ちょっと触っただけじゃねーか」
「すぐ女に手を出すような男に主人を触らせるわけないだろ」
「あれー?もしかして嫉妬?嫉妬?」
「うるさいよ!ほんとに黙ってくんない!?」
背の高い男は群青色の目に眼帯を付けているが、支障がないほどに整った顔をしている。悪戯っ子のように笑うと八重歯が見えた。
そのままヴィンセントに触れようとして、少年人形はそれを華麗に避けた。
「フォルテさん!セクハラなのだよ!」
「味方してやったのにそんな言い種はねーだろ。ってか、お客さんの前でお前ら何やってんだ?」
フォルテと呼ばれた青年はこちらをチラリと見た。本当に目が合うだけでドキリとさせられる。
「わりーな、ここで接客レベルとか求めないでくれよ。お客さんが来るのが珍しいせいであんまり上手く出来ねーんだ。俺様はフォルテッシモ・セガール・メゾフォルテっていうんだ!よろしくな!」
「よろしくね。……結構楽しい人たちだと思ったんだけど、なんでそんなにお客さんが来ないの?」
オーも同じ疑問を持ったらしく、首を傾げている。
「図書室で働いとるのは全員、
スイーッと高い位置から羽を広げて降りてきたのは黒く美しい羽を持つ賢そうな鴉で、話していることから容易に
「聞いたじゃろう?
それを聞いて全員の顔を見渡すが、特に悩んだ様子もなく、深刻さも見せず、ただへらへらと笑っているだけで、こちらの気が抜けてしまう。
「そうだ!つまりアタシは誰よりも強いってことなんだよ!」
「うん。確かにこの中じゃミカが一番強いのであるー」
「おう。納得だな」
強いとか強くないとか、戦いとは無縁そうな雰囲気の中、フォルテとヒステリカがふんぞり返るミカに拍手を送っている。
「犯罪者予備軍とか言われてつらくない?」
「そういうの気にしてたらお仕舞いなんだよ。だってアタシたちは自分の
「俺様気にします」
「ぼくも気にします」
「気にするの!?」
ヴィンセントの華麗なツッコミが炸裂し、何故か照れたように笑うふたり。この人たちコントでもしているのだろうか。
「ミカがわたしを信頼してくれるのは嬉しいのだけれど、やっぱり後ろ指をさされることに申し訳なさはあるわ」
「ハインとかバッシュさんもそう思うかね?」
バッシュと呼ばれた老鴉がフォルテの肩に留まりながら首を傾げた。
「あまり思わんのう。儂、今の方が楽しいし」
「おれは結構考えるね。ただでさえヒィは生活能力皆無なのに、更に犯罪者のレッテル貼られるとか人生終わってるでしょ」
「あれ、なんだろう。涙出てきた」
「いじめすぎなの。ヒステリカさんかわいそう」
オーが珍しく起こっているらしく、カタカタと震えている。
「優しいねぇ。でも気にしなくていいのだよー。これは仲良しの証拠なのだからね」
「バカじゃないの?何がどうなったらそうなるんだよ」
まだオーにはどうして仲良しの証拠になるのかは理解できなかったようで、ふたりの会話を聞きながら疑問符を頭上に浮かべている。
「俺様たちに引いたりしないなんてやっぱ珍しーな。お前」
フォルテが嬉しそうに笑いながら自分を見てくる。
「また、このアタシに会いに来なよ!オススメの本とか集めといてやるからさ!」
「それいいわねー」
ミカとアンジェリーナがバタバタと本棚の方に走り去っていく。
「呼び止めて悪かったね。国外の本も取り扱ってるから読んでみてよ」
お客さんは自分とオーだけ。
貸しきりの図書室で懐かしい絵本や目新しい小説を見つけて楽しんだ。