ここで教えてくれたこと、みんなが知ってくれるんだよ。
最初の物語
ますたーのプロフィールは?
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「うわぁ」
国の中心部にある大きな美術館に来ていた。
この国では1日の大半を仕事もせず暇に過ごしている人が多いらしく、こじらせてしまった絵描きがそれなりに多いようで、ここで個展を出したりするのがそういう人たちの目標になっているようだ。
見たところ、バビロンの風景や人々が描かれた絵がたくさん飾られている。
「いろんなのがあるよ。ますたー」
「小さな国に見えるけど、本当に色んなところがあるんだね」
絵のひとつひとつがまるで生きているみたいだ。
「その絵、気に入りましたか?」
八重歯が愛らしい金髪の少年が話しかけてきた。16歳くらいだろうか。
群青色の硝子のような瞳を持つ彼はブラウンのベストに黒いスラックスを着こなしているが、会議所で見たサカキが着ていたスーツよりは安そうに見えた。
「兄さんもこの絵が好きなんです。なんだか嬉しいなぁ」
「君は?」
「ボクはこの美術館の館長です」
「えっ?館長!?」
「今、意外って顔しただにー」
女の子の声が彼の胸ポケットの中から聞こえてくる。
「ココ。失礼だよ」
ポケットからピョン、と小さな白い耳が飛び出ている。鼠型の
「確かにガキが美術館の館長なんておかしいよにー。お客さんの反応も間違っちゃいないよにー」
「またそうやって子ども扱いするんだから……。どうもすみません」
照れたような表情をしながら彼女の頭を軽く指先でつつくと、ココは驚いたような表情でポケットから顔を出した。
くりくりとした黒い目がこちらを見る。
「これだけ広い美術館ではありますが、魔導書さんと一緒に遊びに来てくれる人は貴重で、つい話しかけてしまいました。失礼ながら移民の方とお見受けしたのですが……」
「うん」
「そうですか。あなたの魔導書さんを見て、なんとなく分かりました」
「オーをみて、わかったの?」
「うん。そうだよ。君を取り巻いているマナはこの国では珍しい色をしているからね」
この人マナの色が分かるのか。一種の特殊能力みたいなものだろうか?
「マナといっても、マナに秘められた性質を、色として認識出来るだけなんですが……。とにかく、とても優しい人なのだと分かります。いいご主人様を持ったね」
館長は優しくオーの頭を撫でて、当の
「人によってマナの色って違うの?」
「そうですね。やはり怒りっぽい人は少し赤みがかっているように思います。でもこれはボクの感覚の問題ですし、あまり自信はありませんけど。あとココ曰く、感情によって味も変わるらしいです」
「えーと、色が分かるとか、すごい才能だと思うよ?」
「ありがとうございます」
そこまで言ったところで、遠くから女性の従業員が彼を呼んだ。
「館長!ちょっとよろしいですか?」
「すみません。サボっていたのがバレてしまいました」
「え」
真面目そうに見えるが、意外とお茶目な一面があるらしい。
彼は軽快な足取りで女性の元に駆け寄り、少し立ち止まってこちらに手を振った。
「あ、館長さんの名前聞くの忘れてた」
「こんど、またあそびにくればいいよね」
「そうだね」
穏やかな気持ちのまま続きの絵を見ていく。
そのひとつひとつに感動しながら歩いていくと、大きな絵の前に出た。
黒々とした絵の具がキャンパスを覆い尽くす中心にたったひとつ白い点が描かれている。
「絵って、よく分からないものもあるよね」
自分でも確実に描けてしまうだろうこの絵に、特に意味を見いだせないまま美術館を後にした。
絵のタイトルは『絶望する人』。