ここで教えてくれたこと、みんなが知ってくれるんだよ。
最初の物語
ますたーのプロフィールは?
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
バビロンに越してきて3日が経つ。
この国に移住するには特殊な審査があって、ジブンはその審査で一発合格した。因みにそういう人は10年にひとり、いるかいないかだという。
この国に移住するにあたって必要な最低事項は、身体の中にある生命エネルギー……バビロンでは『マナ』と呼ばれている物質を、この国で生活出来るレベルまで持っているかどうかで決まる。
バビロンには『電気』が存在しない。『水』も大陸から月に2回ほど定期的に汲み上げたものをずっと使用する。
それを聞いて衛生面とか不便さとか、そういう面をどうクリアしているのか気になったが、国内に入るまでそれを教えてくれることは無かった。きっと外国には秘密にしていることがあるんだろう。
「×××・×××様は逸材ですから、バビロンでの生活はこれ以上無いほど最適なものになるでしょうな」
肩に猿を乗せた老人がそう言った。
「ジブンは確かにマナをたくさん持っているみたいですけど、それ以外には特に才能もありませんし……」
「才能も何も必要ありません!マナさえあればいいのです!」
そう言われても詳細が分からないジブンは納得がいかなかったし、少しだけ胸の奥がチリチリ痛んだ。
「ひとつお聞きしますが」
「え?」
「この国に入れば特例がない限り大陸に戻ることは出来ません。それでも入国をご希望なさいますかな?」
幼い頃からの夢を叶える為、ジブンは首を縦に振った。
こうして入国を果たしたジブンは、公国から大陸を見下ろしながら、長年の夢を叶えた事実を噛み締めていた。
外壁は錆色の金属で覆われ、耳を寄せると内部で蠢く無数の歯車が動く音が聞こえてくる。
天井は透明度の高い硝子で出来ており、空がそのままそこに鎮座しているように錯覚する。
その硝子を支える為に、外壁と同じ色の柱がアーチ状に張り巡らされていた。
「ん?」
辺りを見回すと、国民のほとんどがペットを連れているのに気がつく。
中央に開けた場所があり、それを円形に囲むように、外壁沿いにショッピングモールが出来ていて、たくさんの人々が買い物を楽しんでいるが、その誰もが何かしらの動物を連れている。
「おい!お前!」
ぼんやりしていると、足元から声が聞こえてきた。見下ろすとそこには美しい毛並みを持つ細身の黒猫がいて、明らかにこちらを見上げながら人の言葉を話している。
「えっ!?うわっ!」
驚いて尻もちをつく自分を無視して、猫は饒舌にこう訊ねてくる。
「なぁなぁ!身の回りでなんか事件が起きたりしてねぇか?」
「い、今まさに事件が起きてるよ……」
つい返事をしてしまったが、動物が話しているという事実に慣れてしまったということは全く無い。むしろ心臓は未だに早鐘を打っているし、今すぐ逃げ出したい気持ちでいっぱいだ。
「あれ?お前移民?」
「え?な、なに?」
「そっかそっか!悪かったな!お前『魔導書 』見たことねぇんだな!」
「グリモア?」
猫はちょこんと座り直してにっこりと笑い(そういう風に見える)ながら挨拶した。
「俺はニオン・ライオス!すげぇ魔導書 なんだぜ!」
確かに話す時点ですごい生き物だということは分かるけど、多分彼(多分)はそういうことを言っているわけではないんだろう。
「ま、面倒くせぇし、魔導書 に関しては『魔導書館 』ってところにでも詳しく聞いてくれよ」
「は、はぁ……」
「でもよ。魔導書 がいねぇとまず生活出来ねぇぜ?良ければ暇だし、魔導書屋連れてくぞ?」
こうしてニオンにほぼ無理矢理魔導書屋に連れていかれることになってしまった。
魔導書屋には機械のようなもので出来た動物や、個性的なぬいぐるみ、精巧な美しい人形、キラキラ輝くアクセサリーなどの、本当に色々な形のものが取り揃えられていた。
「あの、ジブンまだ大陸のお金しか持ってないんですが……」
「大丈夫だよ。このお店は大陸から来たばかりのお客様にも魔導書 を提供する為に、お金の代わりにマナを頂くことになっているんだ」
優しそうな中年の店主がそう言って、何故かニオンが偉そうに頷いた。
「ニオン。君もメンテナンスをしていったらどうかな?」
「シャンがいねぇから今度でいいよ」
シャン、というのはニオンの持ち主のことだろうか?
「さ、お客様。気に入った魔導書 に触ってみてください。波長が合えば向こうから話しかけてくれますよ」
商品に触れることに若干の抵抗はあるが、言われた通りに魔導書 に触れていく。
「おっと、もうこんな時間か。俺はそろそろ行くけど、お前はちゃんと相棒選んどけよ!」
「ええっ!?無責任じゃない?」
「俺の主人はお前じゃねぇんだから命令出来る立場に無ぇの!」
そう言い残してニオンはいなくなってしまった。
「悪気があるわけじゃないんだよ。本当は優しいんだ」
「まぁ、ここに連れてきてくれた時点で気にかけてくれてるのは分かったんですけど……」
店主の後ろの方にある魔導書 に目が止まる。
寂しげに佇んでいるそれは、かぼちゃを頭に被った人形の姿をしていた。
背中に小さなコウモリのような羽があり、頭が大きいのに体が小さくて、非常に危なっかしいバランスをしている。
「あの、それは……」
「ああ、この子は波長の合う人がなかなか居なくてね。もうじき廃棄処分される予定なんだ」
なんだか悲しそうに見えるその人形を取ってもらうようにお願いすると、店主は更に悲しげな表情をしながらそれを手渡してきた。
腕の中に収めると意外と大きいそれは、やっぱりジブンの呼び掛けに反応してくれなかった。
「ダメだったか……」
「廃棄処分するなんて、かわいそうじゃないですか?」
「使えない道具を欲しがる物好きなんていないからね。私も心苦しいけど、処分せざるを得ないんだよ」
「あの、捨てるくらいなら頂けませんか?」
「え?」
ジブンの申し出は、普通ではなかなか考えられないものだったのだろう。店主の表情が固まってしまった。
「その子を、貰ってくれるのかい?」
「はい。この子が一番気に入りました。使うための魔導書 は、もう少しこの国のことを知ってから買いに来ます」
「ありがとう!」
彼は鼻水と涙を大量に流しながら手を掴んできた。
「この子は私が造った一番最初の魔導書 なんだよ」
「えっ?」
「どうか大事にしてほしい!本当にありがとう!」
つい、もらい泣きをしてしまう。
その涙がかぼちゃ頭の上に落ち、カタリと小さく音を立てながら人形が動き出した。
「っわ」
「う、うごいた!」
かぼちゃ頭がゆっくりと自分を見上げる。
「ますたー……?」
自分は優しくその子を抱き締めた。
「どうか、その子に名前をつけてあげてくれないか?」
鼻を啜りながらそう言う店主の前で、自分はこの子をこう呼んだ。
「オー。これからよろしくね」
借りている部屋に向かう。オーがちょこちょこ横に揺れながら一生懸命ついてきて、控えめに言ってすごくかわいい。
「ますたーのおうちはもうすぐ?」
「うん。もうすぐだよ」
「どんなところかな。オー、たのしみ」
「あはは。まだ1日も住んだことないんだけど」
オーが急に立ち止まって、顔を両手で挟みながら軽く震え始めた。
「ますたー、おうち無かったの?」
「オー、もしかしてホームレスだと思ってる?」
「ごめんなさい。ますたー」
ジブンはオーに大陸に住んでいたことを教えてあげた。とても嬉しそうに話を聞いてくれるこの子に、深い愛情を感じながら歩いていくと、すぐに小さなアパートの、家具の少ない自室にたどり着いた。
「ますたーは、おしごとしてるの?」
「……まだ決まってないけど」
この国に入る前に言われたことがある。それは、
『あなたは一生働く必要がないでしょうな。その潤沢なマナを人から利用さえされなければ』
バビロンに越してきて3日が経つ。
「ますたー、ニオンっていうひとから伝言がきてるよ」
「ニオン?なんで連絡先知ってるんだろう」
「『まずは貴族連盟会議所ってところにいきな』って」
「ふーん。分かった」
ベッドから飛び起きる。
今日も1日が始まる。
この国に移住するには特殊な審査があって、ジブンはその審査で一発合格した。因みにそういう人は10年にひとり、いるかいないかだという。
この国に移住するにあたって必要な最低事項は、身体の中にある生命エネルギー……バビロンでは『マナ』と呼ばれている物質を、この国で生活出来るレベルまで持っているかどうかで決まる。
バビロンには『電気』が存在しない。『水』も大陸から月に2回ほど定期的に汲み上げたものをずっと使用する。
それを聞いて衛生面とか不便さとか、そういう面をどうクリアしているのか気になったが、国内に入るまでそれを教えてくれることは無かった。きっと外国には秘密にしていることがあるんだろう。
「×××・×××様は逸材ですから、バビロンでの生活はこれ以上無いほど最適なものになるでしょうな」
肩に猿を乗せた老人がそう言った。
「ジブンは確かにマナをたくさん持っているみたいですけど、それ以外には特に才能もありませんし……」
「才能も何も必要ありません!マナさえあればいいのです!」
そう言われても詳細が分からないジブンは納得がいかなかったし、少しだけ胸の奥がチリチリ痛んだ。
「ひとつお聞きしますが」
「え?」
「この国に入れば特例がない限り大陸に戻ることは出来ません。それでも入国をご希望なさいますかな?」
幼い頃からの夢を叶える為、ジブンは首を縦に振った。
こうして入国を果たしたジブンは、公国から大陸を見下ろしながら、長年の夢を叶えた事実を噛み締めていた。
外壁は錆色の金属で覆われ、耳を寄せると内部で蠢く無数の歯車が動く音が聞こえてくる。
天井は透明度の高い硝子で出来ており、空がそのままそこに鎮座しているように錯覚する。
その硝子を支える為に、外壁と同じ色の柱がアーチ状に張り巡らされていた。
「ん?」
辺りを見回すと、国民のほとんどがペットを連れているのに気がつく。
中央に開けた場所があり、それを円形に囲むように、外壁沿いにショッピングモールが出来ていて、たくさんの人々が買い物を楽しんでいるが、その誰もが何かしらの動物を連れている。
「おい!お前!」
ぼんやりしていると、足元から声が聞こえてきた。見下ろすとそこには美しい毛並みを持つ細身の黒猫がいて、明らかにこちらを見上げながら人の言葉を話している。
「えっ!?うわっ!」
驚いて尻もちをつく自分を無視して、猫は饒舌にこう訊ねてくる。
「なぁなぁ!身の回りでなんか事件が起きたりしてねぇか?」
「い、今まさに事件が起きてるよ……」
つい返事をしてしまったが、動物が話しているという事実に慣れてしまったということは全く無い。むしろ心臓は未だに早鐘を打っているし、今すぐ逃げ出したい気持ちでいっぱいだ。
「あれ?お前移民?」
「え?な、なに?」
「そっかそっか!悪かったな!お前『
「グリモア?」
猫はちょこんと座り直してにっこりと笑い(そういう風に見える)ながら挨拶した。
「俺はニオン・ライオス!すげぇ
確かに話す時点ですごい生き物だということは分かるけど、多分彼(多分)はそういうことを言っているわけではないんだろう。
「ま、面倒くせぇし、
「は、はぁ……」
「でもよ。
こうしてニオンにほぼ無理矢理魔導書屋に連れていかれることになってしまった。
魔導書屋には機械のようなもので出来た動物や、個性的なぬいぐるみ、精巧な美しい人形、キラキラ輝くアクセサリーなどの、本当に色々な形のものが取り揃えられていた。
「あの、ジブンまだ大陸のお金しか持ってないんですが……」
「大丈夫だよ。このお店は大陸から来たばかりのお客様にも
優しそうな中年の店主がそう言って、何故かニオンが偉そうに頷いた。
「ニオン。君もメンテナンスをしていったらどうかな?」
「シャンがいねぇから今度でいいよ」
シャン、というのはニオンの持ち主のことだろうか?
「さ、お客様。気に入った
商品に触れることに若干の抵抗はあるが、言われた通りに
「おっと、もうこんな時間か。俺はそろそろ行くけど、お前はちゃんと相棒選んどけよ!」
「ええっ!?無責任じゃない?」
「俺の主人はお前じゃねぇんだから命令出来る立場に無ぇの!」
そう言い残してニオンはいなくなってしまった。
「悪気があるわけじゃないんだよ。本当は優しいんだ」
「まぁ、ここに連れてきてくれた時点で気にかけてくれてるのは分かったんですけど……」
店主の後ろの方にある
寂しげに佇んでいるそれは、かぼちゃを頭に被った人形の姿をしていた。
背中に小さなコウモリのような羽があり、頭が大きいのに体が小さくて、非常に危なっかしいバランスをしている。
「あの、それは……」
「ああ、この子は波長の合う人がなかなか居なくてね。もうじき廃棄処分される予定なんだ」
なんだか悲しそうに見えるその人形を取ってもらうようにお願いすると、店主は更に悲しげな表情をしながらそれを手渡してきた。
腕の中に収めると意外と大きいそれは、やっぱりジブンの呼び掛けに反応してくれなかった。
「ダメだったか……」
「廃棄処分するなんて、かわいそうじゃないですか?」
「使えない道具を欲しがる物好きなんていないからね。私も心苦しいけど、処分せざるを得ないんだよ」
「あの、捨てるくらいなら頂けませんか?」
「え?」
ジブンの申し出は、普通ではなかなか考えられないものだったのだろう。店主の表情が固まってしまった。
「その子を、貰ってくれるのかい?」
「はい。この子が一番気に入りました。使うための
「ありがとう!」
彼は鼻水と涙を大量に流しながら手を掴んできた。
「この子は私が造った一番最初の
「えっ?」
「どうか大事にしてほしい!本当にありがとう!」
つい、もらい泣きをしてしまう。
その涙がかぼちゃ頭の上に落ち、カタリと小さく音を立てながら人形が動き出した。
「っわ」
「う、うごいた!」
かぼちゃ頭がゆっくりと自分を見上げる。
「ますたー……?」
自分は優しくその子を抱き締めた。
「どうか、その子に名前をつけてあげてくれないか?」
鼻を啜りながらそう言う店主の前で、自分はこの子をこう呼んだ。
「オー。これからよろしくね」
借りている部屋に向かう。オーがちょこちょこ横に揺れながら一生懸命ついてきて、控えめに言ってすごくかわいい。
「ますたーのおうちはもうすぐ?」
「うん。もうすぐだよ」
「どんなところかな。オー、たのしみ」
「あはは。まだ1日も住んだことないんだけど」
オーが急に立ち止まって、顔を両手で挟みながら軽く震え始めた。
「ますたー、おうち無かったの?」
「オー、もしかしてホームレスだと思ってる?」
「ごめんなさい。ますたー」
ジブンはオーに大陸に住んでいたことを教えてあげた。とても嬉しそうに話を聞いてくれるこの子に、深い愛情を感じながら歩いていくと、すぐに小さなアパートの、家具の少ない自室にたどり着いた。
「ますたーは、おしごとしてるの?」
「……まだ決まってないけど」
この国に入る前に言われたことがある。それは、
『あなたは一生働く必要がないでしょうな。その潤沢なマナを人から利用さえされなければ』
バビロンに越してきて3日が経つ。
「ますたー、ニオンっていうひとから伝言がきてるよ」
「ニオン?なんで連絡先知ってるんだろう」
「『まずは貴族連盟会議所ってところにいきな』って」
「ふーん。分かった」
ベッドから飛び起きる。
今日も1日が始まる。
1/8ページ